正確に言うと
兵→←伝←左←団




ふわっ、と風が吹き髪がなびくと同時に、足元に砂が舞う。少し肌寒い気くらいの気温になってきたと、外で風にあたる度にいつも思う。


「潮江先輩いないなあ」

となりにいる左吉がため息をつきながら言う。今日は会計委員会があるけど、委員長の潮江文次郎先輩がみあたらない。そんな中、田村先輩に頼まれ、潮江先輩を探す。委員長がいないと委員会は始められないらしい(別に始めなくてもいいけどね、って左吉と話してたけど)。
でも、この状況は僕からみて、にやにやせざるおえなかった。まあ理由は、俺団蔵はこの左吉が好きなわけで。二人で一緒にいられるだけで嬉しいわけで。

「団蔵、何にやにやしてんだよ気持ち悪い」
「えっ?あ、なんでもない」


その時、前進している方から、誰かの叫び声がきこえた。僕には分からなかったけど、左吉には分かったようだった。


「さ、左吉!助けて!」

そう言って走ってきたのは、左吉といつも一緒に行動しているい組の伝七だった。


「おー伝七じゃん」
「…なんだ、また兵太夫か?」
「伝七みーっけ」
「うわあっ!?」

いつの間にか伝七の後ろまできてた兵太夫。俺もこいつと同じクラスだから、兵太夫の怖さはよく知っている。何もされていなくても、なんとなくそのオーラに圧倒されてしまうのだ。いや、良い奴なんだけど。俺自身も前はよく三治郎とのからくりの罠にかかっていたけど、最近はあまりなくなった。同じ委員会の伝七のこの態度をみる限り、からくりの罠に付き合わせているんだろう。


「何もしてないのになんで逃げるのさー?」
「ど、どうせまたからくりの罠に掛けるつもりなんだろ」
「やだなあ、僕がいつ伝七にそんなこと」
「ここ最近毎日じゃないか・・・」

そんな終わりのないような会話をしている二人をみて左吉がため息をつき、伝七の肩に手を置いた。

「伝七、僕は今潮江先輩を探してて忙しいんだ」
「俺たち、ね」
「そういうわけだから、僕の目の前でいちゃいちゃしてないでくれ。じゃあ」

そう言ってくるりと後ろを振り返り団蔵行くぞ、と言って歩き出した。


「ちょ、いちゃいちゃって・・・左吉まっ」
「ほら伝七、僕たちも委員会始まっちゃうよ」
「今日はないって言ってたぞ!」
「まあまあいいから」


遠くに二人の声を聞きながら、反対方向に歩く。


「まてよ左吉ー」


後ろから左吉の顔をのぞいてみると、眉間にしわが寄っていて。

やっぱり左吉は知ってるんだ、あの2人が好き合ってるということ。本人たちが自覚しているかどうかは分からないが、僕から見てもそんな風にしかみえなかった。


「ちょっと伝七に、悪いことしたかな」
「・・・そんなことないだろ。伝七は兵太夫のことになると左吉にすぐ頼るもんなあ」
「そ、そうだよな?」

俺の言葉を聞いてほっとした顔をする左吉。そして俺は、もう一つ知っている。

「悪いな、団蔵にしか言えないんだ」

左吉が、その伝七を好きだということ。いつも左吉をみている俺が、それに気付かないはずがなかった。こっちから冷やかすように訊いてみると、左吉は案外あっさりと話してくれた。まあ俺は、自分から自分の恋を叶わなくしてしまったのだ。

「…俺でよかったら、いつでも話聞くからな」

自分で自分の首を絞めているようなものだった。そんな俺の言葉に、いつもありがたいと笑顔を向ける左吉。その笑顔は、伝七に向けるときとは違うんだろ?



「あ、潮江先輩だ!」

左吉の声で向こうをみると、俺たちが外に出た目的の潮江先輩の姿が遠くに見えた。

「団蔵?」

俺がついてきていないことに気付き、こちらに振り返る。純粋な表情にああ、今行く、と返事をする。
この気持ちは、きっとこれからも俺だけの秘密だろう。誰に相談する必要もないし、ましてや本人に言う必要もない。恋って儚いものなんだなあ、と呑気なことを考えて、先輩に向かういとおしい後ろ姿を追い掛けた。









最初から知っていたんだ、
(この恋が叶わないなんてこと、)







2011.05.22
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