庭の方から、忍たま達の楽しそうな声が聞こえてくる。
大体の委員会が終わったのだろう、教室のドアが開く音や足音も同時に聞こえた。
「手、はなせ」
目の前にいる伝七が顔を赤くして、訴えるように小声で言う。
その声で僕ははっと我に返った。
僕は今、おそらく人生初の告白をしようとしている。
まあ人生と言っても、まだそんなに生きてきてもないんだけど。
同じ委員会の伝七を好きだと感じたのは、割と最近だった。
本人に言うつもりはなかった。
でも委員会が終わって作法室に二人きりでいたら、やっぱり言わないと気がすまないような気がしたのだ。
だって、夕日に照らされた横顔が同い年とは思えないほどあまりにかわいらしかったから。
名前を呼んでもこっちをみないから無防備な手を軽く握ってみても、肩をびくっとさせるだけで、うつむいたまま。
「兵太夫、はなせってば…」
「…はなしたくない」
「嫌がらせか、」
「ち、違うって!」
教室で男二人が手をつないで言い争いなんて、どっかのカップルかよ…と思いつつ、少し期待していた。
だってまだ手をつないだだけなのに、伝七は顔を真っ赤にしているから。
僕も多分人のこと言えない状況だと思うけど。
小さく深呼吸をする。
「僕は、伝七が好きなの」
ついに言った。言ってしまった。
伝七は僕のことどう思ってる?と直球に訊いてみても、うつむいたまま。
さっきより顔が赤くなってる気がする。
「僕のこと、嫌い?」
多分今、泣きそうな顔をしている気がする。
声が震えたようだった。
「、そんなこと、言えるわけないだろ」
「なんで、」
「だって、言ったら」
もう今までみたいにできなくなる、と、さっきの僕と同じ震えた声でつぶやいた。
今の、同じ委員会の仲間という関係が崩れるのが怖いということなのか。
「それはないよ。伝七の答えを聞いたからって、今までみたいにできなくなるなんてこと」
「でも、」
また開こうとした伝七の口を、握っていた片手を離して塞いだ。
「…伝七、お願い。僕のこと、嫌い?」
「へ、兵太夫…」
自分で情けなかった。本当に泣きそうだった。
さっきまで、伝七も好きなんだろうなんて考えていたけど、言葉を聞けないだけで、こんなに不安な気持ちになるなんて。
その途端、伝七が手を握り返してきた。
「あほのは組だし、…すぐからくりの罠にかけるし、むかつくけど、」
「兵太夫が、好き」
顔を上げて、意を決したようにいつもより大きな声で言った。
やっと僕の顔を見てくれた。
視線が僕の瞳にまっすぐ伸びて、無意識に僕も見つめ返す。
顔が真っ赤だった。
「伝七、かわいい…」
「ちょ…恥ずかしいこと言うなよ…!今僕最高潮に恥ずかしいんだぞ」
「何言ってんの、お互い様でしょ!僕だって今すごい顔あっついもん」
僕だって…、といつもと同じ張り合うように伝七が頬を膨らます。
ほらね、今までの僕たちと何も変わってないよ。
「僕も、伝七が大好き」
おでこを付けて言うと、伝七は恥ずかしそうに赤い色の笑顔を向けた。
心臓がしめられたようにきゅう、と感じて、僕も笑った。
今からきみに告白します
(顔が熱くて倒れそうだった)
(だからそれもお互い様)
2011.05.22