マックスと喧嘩をした。
原因は小さなことで、最初はくだらない口喧嘩だけのはずだったのに。
口をきかないで一週間がたつころ、仲直りしようとして失敗した。何やってんだ俺…。
それで、なんやかんやで二週間はたったと思う。
同じクラスだから目に入らない日はなかったけど、話掛けられることも掛けることもなかった。
「マックスのバーカ!」
そう叫んで鞄を投げるのが、いつの間にか家に帰ってからの日課になっていた。
別に、マックスだけが悪いわけじゃない。俺ももちろん悪いのは分かってる。
分かってるけど、俺に話かけてこないあいつに、なんでだよってイライラする。
結局、俺は期待してるのかもしれない。
そんな自分にもイライラしてしまう。
ここ数日、なかなか眠れなかった。
夜布団に入ると、必ずマックスのことを考えてしまって苦しかった。
(ずっと、はなしてない)
もちろん話したいに決まっている。
携帯を見ても、マックスからのメール、着信はなし。
来てないだろうな、と分かっていても、心のどこかではまた期待してる自分がいる。
時間を見るとだいぶ遅い時間になっていて、明日のことを考えて無理やり目を閉じた。
その時、マナーモードにし忘れていた携帯がうるさく音を鳴らした。
電話の着信音だったから、こんな夜中に誰だよと思いながら携帯を開くと、画面には“松野”の文字。
まさか。
恐る恐る通話ボタンを押す。
『…もしもーし』
変わらない、少し高い声。
俺に向けられた声。
相手の名前を呼ぶのがやっとだった。
「…マックス?」
『せいかーい。いや、携帯だから分かるでしょ』
なんて軽く突っ込む。
画面に出た文字でそうだとは分かっていたけど、何かの間違いかとも思った。
約二週間ぶりの会話。
この声が、ずっと聞きたかった。
「ぅっ…」
『え!もしかして泣いてる?』
思わず、情けない声が出る。
たったの二週間話せなかっただけなのに、もう二度と話せないような気がしていた。
先のことばかり考えて、泣きたくなった。
「もう、…はなせないかと思ってた…、」
絞りだすような声で言うと、そんなわけないじゃん!と返ってきて、安心する。
続けて、まったく〜と呆れたような声が聞こえてきた。
『…真一くん真一くん、窓の外みてみて』
「えっ…?」
窓の外、と言われて急いで窓のカーテンを開けた。
下を見ると、暗闇の中でわずかに見える人影。
「…なんで、」
そこには、いつもと変わらない帽子を被って携帯を片手にしたマックスが立っていた。
『会いたくなって、来ちゃった』
にーっといたずらっぽく笑っているのがうっすらと分かった。
今何時だと思ってるんだ?しかも平日だぞ?
家だってそんなに近いわけじゃないのに。
会いたくなってなんて、お前は女か。
馬鹿だ、俺に会いたくてこんな夜中に家に来るなんて、こいつは馬鹿だ。
そんな気持ちばっか込み上げてきても、止んでいた涙がまた流れだした。
『泣くなよ!抱きしめたくなるじゃん』
なんて冗談ぽく言うから、つい笑ってしまった。
「…ばーかっ」
少しの沈黙ができた。
久々のマックスとの沈黙も、心地よく感じてしまう。
受話器越しに、意を決したように深呼吸をするのが聞こえた。
『はんだ、ごめんね』
こいつはそうそう謝らない。
いつもの謝りは冗談ぽいけど、今度のは本当の言葉だなと分かった。
「俺も、ごめん」
二週間、言いたくて言えなかった。
この一言で許せてしまうなんて言葉はすごい、と一瞬関係ないことを思った。
『じゃあ、また明日ね』
「ああ、また明日」
窓の外にいる人影が背を向ける。
受話器の切りボタンを押そうとすると呼び止められた。
『はんだあ』
「なんだよ」
『好きー』
不意打ちに言われた。
いつも言われてたけど、やっぱりこいつの言葉は俺の体の熱を上げる。
「…うん、俺も、」
『俺も、何?続きは?』
「いっ、いいから!じゃあな!」
まだ話していた気がしたけど、恥ずかしくなってつい電話を切った(あ、帰り気をつけるようにって言うの忘れた)。
どうも心残りで、一言だけメールを送ってからまた布団に入る。
またいつもの毎日が戻ってくると思うと安心して、気がつくと俺は夢の中に引きずりこまれていた。
素直になる夜
(明日からはおはよう、って言えるよな)
(おやすみ、また明日)
2011.03.14