夏休みにはいったら、宿題は早めに終わらせたいというのが普通だと思う。
まあ、俺はいつも中途半端に終わらせしまうんだけど。
それがいやで、今年こそはしっかり早く(なるべく7月中に)終わらせようと思い、家に松野を呼んだわけで。

同じクラスだけど、松野がサッカー部に入るまではあまり関わりはなかった。
俺はもともといろんな奴と話すわけでもないし、どちらかと言うと友達の範囲は狭いと思う。
だからあいつがサッカー部に入って俺に話し掛けてきた時は少し驚いた。
自分は多分、眼中にも入っていないと思っていたから。
今となっちゃあ、部活以外でも一緒にいるくらいの仲になった。
それに松野はどうやら頭もいいらしい。
まあ、だから一緒に宿題をやろうと家に呼んだわけなんだけど。




「半田〜」

と、何回目か分からないいかにも眠そうな声で呼ばれて、少しだけ顔を上げる。


「何」
「勉強飽きたよー」
「またそれかよ」
「だって飽きたんだもん」

暇ーと言って持っていたシャーペンを投げて後ろに倒れこむ。
こいつ、もう完全にやる気ないな。
分からないところを教えてもらおうと思ってこいつを誘ったものの、これじゃああまり意味がない、とため息をついた。


「半田〜」
「何」
「アイスたべたーい」

またこいつは集中力を途切れさせるような。


「…うちにはないぞ」
「買いにいこーよ」
「面倒」
「おごるから」

…こいつ、俺がおごるという言葉にふらっとしてしまうこと分かってるな。
ねえ、行かないの?と覗き込むように訊いてくるもんだから、ああもう分かったよ!と立ち上がるしかなかった。






「あそこのコンビニだめじゃん!」


近所のコンビニにのろのろと歩いて無事アイスを買って出ると、早速アイスの袋を乱暴に開けて大声で言った。
何が?と訊くと、いちご味がなかった!と小さい子供みたいに頬を張る。
なんだ、そんなことかよ…。


「いちご味好きなのか?」
「うん、言ってなかったっけ?」
「聞いてねえよ」

まあ別に聞かなくてもいいけど。
ふと、俺ってこいつのことあんまり知らないかも、と思った。


「お前って何好きなの?」
「えー何突然ー」
「いや、なんとなく」

にやにやしたような笑顔で見てきて、質問したことをちょっと後悔した。

「まあいろいろあるけど〜一番は半田かなー?」
「…お前は…」


真面目に訊いた俺がバカだったのかもしれない。
もういいわ、と歩き出す。
ねえ、とまた呼ばれて面倒になり、アイスを頬張ったまま歩き続ける。



「…本気なんだけど?」



…あ?

振り返ると、さっきまでのふざけたような笑顔はなく真剣な表情で、思わず動きを止めた。


「…は?」

「僕、半田が好きだよ」

さっき家にいたときの目付きとはまったく違っていて、真っすぐに俺を見ていた。



世間では、どうやら夏はまだ始まったばかりらしい。
もうすぐ沈みそうな夕日の中で、自分の心臓の音が蝉の鳴き声と同じくらいうるさく響いた。







夏の始まりは恋の始まり

(…始まり?)



2011.03.14
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