「よし、今日はここまでだ。3年生には難しい呪文なのに良く出来ているよ」
僕はハリーに優しく笑いかけ、チョコレートを一つ手渡した。
それから次の練習の約束をして、遅くなったから気をつけて帰る様に諭した。
吸魂鬼に対抗出来る唯一の手段、守護霊を身につける為にハリーは僕の元へと訪れている。
…シリウス。
君は本当にハリーを襲うつもりなのかい?
考えても考えても答えは見つからない。
そんな時はナマエの元を尋ねて、彼女と話をすると落ち着く事が多い。
きっと彼女が僕と同じ世界に生きているからだろう。
忘れられない過去。
信じたく無い事実。
そして…、
「リーマス?今大丈夫かしら」
「ああ、入って良いよ」
「さっき寮に帰っていくハリーを見たわ。今日も特訓をしていたのね」
「まだ3年生なのにあんなに必死にさせてしまうような世界にした僕達が悪いのかな…」
「……」
「ごめんナマエ…」
これではまるでナマエを責めているみたいだ。
僕は空気を変える為に彼女にとっておきの紅茶を振る舞う事にした。
「美味しい…。リーマスの紅茶って優しい味がするの」
「はは、それは嬉しいね。…こんな時間にどうしたんだい?」
ナマエはパジャマ姿で、きっと本当はもう寝るつもりだったに違いない。
それでも僕の所に来る必要があったということは、唯事ではないような気がした。
「彼を…シリウスをね、思い出しちゃったの。今まではすぐに心から消えてくれたのに…何でかな、ずっとここにいるの…」
「ナマエ…」
「私、ハリーに…あの子の事を守るって決めたのに…なのに…」
それは小さな衝動だった。
こうしてナマエに再会出来た原因が、ハリーの心を苛む存在が、世間を騒がせている人物がシリウスだとしても、僕はこの瞬間だけは彼に感謝してしまった。
そして僕の腕の中にはナマエがいた。
愛と呼ぶには残酷過ぎる