まだ肌寒いながらも春の気配を感じさせる5月の日。
ナマエは一人湖の辺を歩いていた。
「あーここがホグワーツじゃなければ今すぐメールしてって言えるのに…」
ホグワーツ内ではマグルの製品は使えない。7年も過ごせばそれが普通になるのだけれども、時々…そう、こういう時にマグル製品が使えないことが歯痒くなる。
「---リーマス、今頃何してるのかな?」
今すぐ声が聞きたい。
何してるのか知りたい。
短い文だけでも良いから、貴方と繋がってることを感じたい。
「…でも梟便出す程のことじゃないしね」
それに今はきっと任務中。
そうでなくとも人手の足りない騎士団のこと。忙しくない訳がない。
「あと少しで卒業だから、我慢しなきゃ」
そうしたら、いつでも彼に会える。
こんな風に一つ生まれて来る年を間違えた事を後悔することも無くなる。
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「あれ?リーマス、何してるんだい?」
「アーサー。これはね、マグルの機械でケータイ電話っていうらしいんだ」
「マグルの!それは本当かい?是非見せてくれないか」
マグルの機械、その一言で色めき立つアーサーに苦笑を零しながら大人しく携帯電話を渡した。
ナマエに出会うまで縁の無かった物だ。第一魔法界で生きていく中でマグルの製品は役に立たない。---知り合いにマグルが居るならば話は別だけれども。
「---へぇ、こんな物でマグルは会話をするのか」
「手紙みないなのも送れるみたいだよ」
「手紙も!いやぁ本当にマグルは面白い!魔法が無くても生きていく手段を持っているだなんて」
そのまま一人でマグル話で盛り上がりそうなアーサーだったが、仕事を抜け出して来たのがモリーに見つかった為に連れて行かれてしまった。お陰で残されたのは静寂のみ。
「本当…マグルは面白いものを持っていると思う」
『リーマス、これは携帯電話っていうの』
『携帯電話?』
『そう、マグルの必需品よ。これで友達や恋人と連絡を取り合ったりするの』
『でも君はもう魔女だろう?だったら必要ないんじゃないかな。梟便もあるし』
『はぁ…リーマスは分かってない』
『?』
『いつでも声が聞けるのよ。それに梟便と違って、今伝えたい言葉をリーマスに伝える事が出来るのよ。それって大事なことだと思うの!』
真剣なナマエの様子に圧倒されたリーマスは、あぁとかそうだねとかしか返せなかった。
だけど頭にはしっかり届いていた。
(いつでも声が聞ける…か)
『確かに素敵だね』
『…!でしょう?じゃあこれリーマスの分ね』
『え、僕は要らないよ』
『今の聞いてたの?私と、リーマスとを、この機械が繋いでくれるの。分かった?』
『うん…でも』
『小さなキューピッドだと思ったら良いじゃない』
『…そうだね』
ナマエの言い方は今思い出しても頬が緩んでくる。
普段余り弱音を吐いたり甘えて来ない分、時折見せる女の子らしい姿がとても愛おしい。
なんだかんだ言って今頃寂しがっているだろうな。
リーマスは澄み渡った空を見上げ、北の懐かしき学び舎に想いを馳せた。
明日の朝に着くように梟便を出そう。
ナマエが喜ぶような小さなプレゼントと一緒に。
Please,make me magic!
あと、彼女が休暇に入った時に一番に届くメッセージを。