誰にでも秘密の一つや二つ。仮面に隠されているのは真実だけとは限らない。
嘘で塗り固められていても良い。手を伸ばした先に掴んだの、それが私の選んだもの。




「またポッター達よ」
「本当。グリフィンドールも可哀想ね。あんなに毎日減点されてちゃ堪らないわ」

くすくす、と繰り広げられる授業中の私語。そしてそれはスリザリン側でのお話。
今日も合同授業でポッターとブラックが減点されていた。スリザリン生の鍋に糞爆弾を投げ入れたらしい。鍋が爆発して薬をモロに浴びてしまった同寮生を哀れに思うも、ライバルと目している寮が減点されるのが嬉しくて堪らないという風だ。そして私も一応スリザリン生として、そうだね、とだけでも返しておく。
本当はどこの寮が減点されていようが得点を貰っていようがどうでも良い。だって学年末に自分の寮が優勝したからってトロフィーが貰えるだけじゃない。

「おや、ミョウジ。今日の薬はそう難しくないはずだが、どうしたんだね?」

お喋りに花を咲かせていたつもりは無かったけれども、どうやら手は全く動いていなかったようだ。それに比べて周りの子はあれだけ無駄話をしていたというのにソツなく本日の課題である眠り薬の調合を予定通りこなしていた。

「すみません先生」
「君は最近ちょっと薬の質が下がってきているんじゃないかな?今日の放課後残って補習をしたまえ」
「…はい、先生」

スラグホーン先生はその返事を聞いて満足したのか、今度はお気に入りの生徒の元へと移動していった。

「ナマエ大丈夫?私魔法薬は得意だから手伝ってあげようか?」
「ありがとうジェイミー。でも先生の言う通りだし、私一人で作るわ。それにあなた放課後はデートだって言ってたじゃない」

私の一番の親友の申し出は嬉しかったが、彼女には先約があるのだから申し訳ない。それにここ最近魔法薬だけじゃなく、他の授業でも身が入っていないと先生に注意を受けることは多かった。
その様子に「恋わずらいじゃないの?」と的を得た指摘をしたのは勿論ジェイミー。だけどナマエは「そ、そんなことないよ!」と真っ赤になりながら返答したために「そうです」と答えたも同然だった。深く追求されることは無かったものの、また今度聞かせてね、と言われてはいつかは話さなくちゃいけないのだとは思うけれども。
だけど、私が好きなのは…




「ルーピン…?」
「え?あ、君も補習?僕もなんだ」

はは、と頬を掻いて苦笑いをしている人こそ私が想いを寄せる相手。
グリフィンドールの、しかもあのポッターの友人が好きだなんてスリザリン生に言えるはずが無い。ジェイミーは良いとしても(あの子も昔グリフィンドール生と付き合っていたし)、私の家の耳に届きかねるようなことはしたくない。
彼も補習を言い渡されたみたいだ。大鍋と教科書を抱えて放課後のこの教室に入ってきたのだから間違いない。

「君は、スリザリンだよね?えーと…」
「ミョウジよ」
「あぁそんな名前だったね。ミョウジは魔法薬学苦手なの?僕も苦手でさ、今日も何故か紫色の薬が出来たんだよ」
「ルーピン、近くないかしら?」
「え、ああそうだね。でも一人で作るより二人で作った方が早いとは思わないかい?」

にっこりと笑顔で言われては上手く返す言葉も見つからず、そのまま彼に隣を預けてしまった。本当は嬉しくてドキドキしてどうしようもないのだけれど、そんな姿は見せられない。

「これはみじん切りだっけ?」
「ちょ、待って!それは千切りって書いてあるわ」
「本当だ」

私が間違えないように必死に教科書の記述を追っていると、ルーピンの手が伸びてきて私と同じ箇所に手を伸ばした。そして調合方法の記述を指で追いながらふむふむ、と納得している。…そうじゃなくって!

「っ、ルーピン」
「どうしたのミョウジ、顔が赤いよ」

ふふ、と笑うリーマスにますます何も言えなくなる。
ダメだ。これではまるで貴方が好きです、と言っているようなものではないか。
せっかく卒業まで、いや卒業後も胸に秘めておくつもりだった想いを、こんなところで本人に知られるだなんてことは避けたい。

「ルーピン、私の家純血なの」
「…そう」
「だから私とはあまり関わらない方が良いわ」

それは貴方にとっても、私にとっても、という意味で。
きっと私には卒業後には父が決めた結婚相手を紹介され、そして純血の血筋を護っていくのだ。純血が偉いだとか偉くないだとかは思ってはいないが、それはミョウジ家に生まれたからには決められた道なのだろう。そのために私はここまで育てられ、色々な物を与えられてきたのだから。感謝こそすれ、憎みはしていない。
そして私が彼に惹かれたのは…

「だけどミョウジは僕と関わりたそうだけど?」
「あ…っん---」

貴方のその瞳の奥に、私の血筋と同じ色を見つけたからかもしれない。
例えグリフィンドールだとしても、純血ではないとしても。彼の中には捕らえたものを離さない力、的確で時には狡猾な判断を下す思考があるのを知っているから。

「ねぇナマエ、ミョウジなんて止めてこっちに来たらいいのに」
「…そ、れは出来ない」
「なんで?」
「…私を育ててくれたのはミョウジ家だから、私が今ここに居るのも私がミョウジだから…」

出来るならばその全てを捨てて貴方の元へと行きたい。
何が待ち受けているかは分からないけれども、自ら翼を折ることも或いは…

「そう。でも僕はナマエのこと前々から気になっていたんだ。僕のことも…そうだろう?」
「……」
「また来週、一緒に補習受けようよ。その時にまたキスしてあげる」

柔らかく、だけど拒絶を許さない笑顔で。
名前…教えたつもりは無いのに、前から知っていたというのは本当なのだろう。
そして私の想いも…


大鍋の薬がコポコポと沸く音だけが響いていた。

私は彼に手を伸ばし---



初めて自分が選んだものの真実を知った。



20100406


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