「シリウスの馬鹿っ、最低ね」
バチン、と聞く分には見事な音が響き渡った。生憎ここは大広間。どの寮生もが彼と彼女の一挙一動を見守っていた---女子生徒のみだが。
渦中の二人はグリフィンドールとレイブンクローの男女。片や学内きってのプレイボーイ、対するは最上級生の首席。才色兼備とは彼らの為にあるような言葉ではないだろうか。その二人の修羅場が始まったものだから、女性陣の視線は釘付けだった。
「…シリウス今度は何したの」
「僕達の学年に先輩の妹居たでしょ、カノンだったかな。その娘との浮気現場にばったり出くわしたのが…そう彼女だったって訳さ」
「うわー…」
「シリウスも馬鹿だよ。僕のリリー一筋を見習うべきだ。そうは思わないかいムーニー?」
学内きっての情報屋、ジェームズ・ポッター。ほんの10分前の出来事で彼の耳に届いていないものは無いとすら囁かれている。ある者は強情られ、ある者は情報を買いに訪れ、またある者は自ら情報を売りに…悪戯仕掛人よりもそれは時に武器になる。そんな彼に一つ欠点(敢えて一つに絞るならば)があるとすれば、それはリリー・エヴァンズに対する恋だろう。
盲目過ぎるが故に実らないのだとそろそろ気付いて欲しい、というのが皆の共通認識だった。
「ジェームズなんて見習うべきじやないね。それを言うなら僕とナマエだろう」
「、ムーニー言うねぇ。でもそんな彼女は何も聞いていないみたいだよ?」
「…え、私?」
すっかりディナーに夢中になっていたナマエは、デザートのチョコタルトを口に運ぶ途中のまま返事を返した。本当は早く食べてしまいたかったけれども、横から友人二人分の視線を受けていてはのんびりと食事もしていられない。
「そう、僕とナマエはお似合いだってさ」
「ありがとジェームズ。これ食べる?」
「いや、良いよ…君の恋人に嫉妬されちゃうからね」
実際ナマエの手のチョコタルトがリーマスの前を横切った瞬間の彼の視線は物凄いものだった。きっとジェームズじゃなければすぐに跪いて許しを請うだろう。
ジェームズに断られてはナマエは、そう?と言って再び自分の口に運ぼうとした所を横からリーマスに奪われてしまった。
「!リーマス!あたしのチョコタルトなのに…!」
「美味しかったよナマエ」
それでもにこにことしているリーマスにナマエは怒る気力すら失い、近くにあったチーズケーキに手を伸ばした。
「…それにして君たちって全然喧嘩しないよね」
ジェームズがシリウスの方に視線を向けながら続けた。心なしか親友の危機を楽しんでいるようにも見える。
「だって喧嘩したらつまらないじゃない」
「そういうものなのかい?」
意外なナマエの返答に興味をそそられたようで、今度はしっかりと二人を見ながら返した。
「うーん、確かにそれはあるかな。きっと僕達は喧嘩してもお互い謝らないと思うな」
「それ分かる!それでリーマスのこと忘れて…ってイタタタ」
余りの言われように横からナマエの耳を引っ張っるリーマスは楽しそうだ。
「試しに喧嘩してみる?…良い見本があそこにあるよ」
あそこ、とは少し離れた所で未だ飽きずに続けられている痴話喧嘩。何時の間にやら浮気相手まで加わって壮絶なことになっている。
「…良い。だってリーマスと喧嘩したいと思わないし」
「良い心がけだね」
よしよし、と頭を撫でられ嬉しそうにしているナマエを片目に見ながら、ジェームズはそっと溜め息を吐いた。
前を見れば良好な関係、隣を見れば修羅場。
僕にも早く春よ来いーー!
ジェームズの叫びは大広間に響き渡った。
(あのね、リリーが今度ジェームズのデートの誘い受けようかなって)
(へぇ。でもジェームズに言ったら駄目だよ)
(…?)
(こんな面白い事は中々無いからね)
20100324