「私はね、ナマエ、」

少女にゆっくりと語りかける。
私はこの学校を卒業して友を失ってから、一度も自分の誕生日など祝ったことなどないんだ。
私はこの世に居てもいい存在なのだろうか。私が生きている意味などあるのだろうか、と。
幸い私の周りに居た人達は、お祝い事が好きな者達ばかりでね。在学時など人の誕生日だと言うのに、騒がしいくらいに一日中お祝いをしてくれたものだ。
このホグワーツに再び戻って来てから、私は昔を思い出す事が多くてね。今朝も先生方が贈り物を下さった。
ああ、今日は自分が生まれた日なのだと、10年振りくらいに思い出したものだ。

何時の間にかリーマスはナマエの隣に腰掛け、愛しい娘を抱きしめるかの様に腕に収めている。ナマエは最初こそ驚いたものの、今では大人しくしている。寧ろ大きな子供をあやすかの様に自分よりも広い背中に手を回し、時折上下させている。

それで、ナマエ。君に会ったんだ。
君の質問には答えなくちゃいけないと思っていたのは確かだよ。だけど私の我が侭な心は、ナマエと一緒にケーキを食べられたら、とも思ったんだ。
いけない大人だね…私は。

そう締めくくるとリーマスは名残惜しそうにナマエから離れた。
私はたった13、4歳の少女に何を言っているのだ。と瞬間に後悔と恥ずかしさが込み上げる。

「すまない、ナマエ。本当はこんな姿を見せるつもりは無かったんだ。ただ君にはケーキを食べて、笑って貰いたかっただけだから。本当だよ」

「先生…私、来年も再来年もお祝いします!」

先生は私を求めていてくれた?
それは私が一方的に抱いているような恋では無いだろうけど、先生が悲しい思いをしないで済むのなら何度だってお祝いをしてあげたい。

「さあ先生食べましょう!」

まるで春をそのままケーキにしたような。つやつやときらめくゼラチンはきっと雪解け。

「先生、誕生日おめでとうございます。先生が今居ることで少なくとも私は幸せですから…って、あれ」

どさくさに紛れて告白紛いの事を口走ってしまった自分に気付き、焦って目の前で手を振る。今のは違います!あ、や、違いません!
言葉を重ねる程自分を見失ってしまいそうだ。

「ふふ、ありがとうナマエ。私も君が生きていることが幸せだよ」

口に入れたケーキの甘さが、いっぱいに広がって幸せな気持ちになった。



私と先生のその後はまた別のお話。
先生と私のパパとママとのお話もまた今度。

今は悲しみよりも、今の幸せを噛み締めていたいから。


先生、また来年も一緒にケーキ食べましょうね。





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