「ルーピン先生?」
返事を待ってから扉を開ける。途端慣れた匂いが鼻を掠める。
「わ…っ」
「…ナマエ」
大きな腕に包まれて、視界は一瞬にして真っ暗になった。
彼がこんな行動に出るのは何か悲しい出来事があった時。
「…せんせ?」
そっと背中に回した手を、幼子をあやすように上下にさする。これが一番効き目があるって知っているから。
「お茶、入れますから…少し待っていてください」
もう少しこうしていたいのは山々だけれども、先決すべきは別のこと。
いそいそと先生を引きはがし(ごめん、先生)、ソファに座らせた。
「---また、情けないところを見せてしまったね」
満月の前後、彼は酷く不安定になる。
傍に居たいのに叶わない代わりに、先生のそんな状態を受け止めてあげることが私に出来る精一杯のこと。
「そんなことないです。…紅茶には砂糖をたっぷり入れましたから」
頭から抱きしめる。そうすることで少しでも彼に安心を与えられるなら…
(だから、私の前ではこれ以上強がらないで)
20100208