気付かされた6日目
いつもよりも少し早い時間に目が覚めた。昨日のことで思ったよりも動揺しているらしい。
既に東京に帰った幼馴染みに毒を吐く。
「やってくれたな。貞治」
俺がもらう、なんてあんな目にみえた挑発に乗るなんてらしくない。
今の俺にはそれだけの余裕がないのか。普段なら上手くかわせたはずだ。
言うつもりなどなかったのに全く余計なことをしてくれたものだ。思い出してしまったからにはもう抑えられない。
ぬるい風が頬をなでた。溜息ばかりやけに大きく聞こえる。
しばらくぼうっとしているとドアの向こうからはドタバタと支度をする音が聞こえ始めた。もうそんな時間か。
そろそろ行かなければ目玉焼きが焦げる頃だな。腹を括るか。
キッチンに向かうと案の定フライパンから香ばしい匂いがしてくる。
「なまえ」
「お、おはよう蓮二」
「ああ、おはよう。火を止めろ」
「え? あ、焦げちゃう!!」
慌てて火を止めるなまえ。少しは気にしているのだろうか。
だとすれば素直にうれしいが、これはいつものことか。
「あとは俺がやろう」
「お願いします」
自覚するだけでこうも変わるのか。俺の気持ちには決着がついた。
昔の俺は思ったより大人だったらしい。よくもまあ我慢できたものだ。
ただ、そのせいでこの現状になるであろうことが予測できなかったのか。
詰めが甘かったな。
「ねえ、蓮二大丈夫?」
なまえの声で意識を引き戻される。手が止まっていたのを心配したらしい。
これは、いけないな。無性に愛しさが込み上げてくる。本当に俺らしくない。
「ああ、なんでもない」
「だったらいいんだけど」
なまえはきっと考えないようにしているんだろう。今更返事を急かす気はない。急かす気はないが少しくらい。
俺が動揺したくらい、そのくらいならいいだろう。
「なまえ」
「なに?」
振り向いたなまえに言ってやる。
「好きだ」
「な、何言ってんの!」
耳まで赤く染まって睨まれてもな。怖くもなんともない。むしろ可愛くて仕方ない。けれど、
「お前は笑っていた方が好きだ」
固まったなまえを放って食事を始める。お前は気づいていないだろうがな、俺も顔が熱いんだ。
たまに素直になってみるのもいいかもしれない。