泣きたくなる5日目
どうしてこうなったんだろう。全く身に覚えがないし身動きが取れない。背後から聞こえてくるのは私の好きなドラマの主題歌。ということは、かれこれ1時間はこの状態が続いてたわけで。
「…蓮二?」
「なんだ」
「なんだじゃなくて」
えーと、今私は蓮二に抱え込まれてます。それはもうぎゅーっと力強く。ほんとどうしたんだろう。テレビ見たいのに。
「私テレビ見たい」
「いいから大人しくしていてくれ」
蓮二を見上げると眉を下げて笑っていた。なんで、なんでそんな顔するの。なんでそんな泣きそうな顔してるの。
わけが分からない。だって朝は普通だった。いつもと同じで私の扱いはひどいし、ご飯おいしいし、全然変わらなかった。
気づいたら私まで泣きそうになっていた。蓮二はそんな私を見て目を細めて呆れたような顔をした。
「どうしてなまえがそんな顔をする。ますます不細工になるぞ」
「ひ、ひどい!……だって蓮二が……泣きそう、だから」
「……昔からお前は変なところが鋭かったな」
どうしたの。そんな困った顔しないで。私ずっと前に蓮二のこんな顔見たことある。思い出せ、思い出せ……。
「なまえ、お前は俺が嫌いだろう?」
「え?」
そうだ、蓮二が引っ越す前の日。あの時もこんな顔で笑ってた。今思えば、いつもより優しかった気がする。不思議に思ってたら次の日にはいなくなってて。……忘れられるはずないんだ。
「蓮二どっか行っちゃうの?」
「何故そう思う?」
「あの時もおんなじ事聞いたもん」
「あぁ、覚えていたのか」
酷く優しい顔で笑った。本当にどこかに行ってしまうんだろうか。また私を置いて。そんなの嫌だ。
「心配するな。今度はそうじゃない。ただ、」
「ただ?」
「決着を、つけなければと思ってな」
フッと腕の力が緩められて、静かに開眼した蓮二と視線が重なる。あれ、ダメだどうしよう。涙出てきちゃった。
ぐいっと目元を親指で拭われる。
「なまえ、聞いてくれ。俺は、」
「うん」
「俺は、お前が大切なんだ。貞治にだって譲れない。」
「えっ……?」
「好きだ なまえ 」