始まる1日目
「おぉ綺麗!」
高校合格と同時に学校のある神奈川に引っ越すことにしました。
長時間かけて往復するより、学校に近い方が何かと便利かなってこともあって、ちょっと高いけど良さそうな部屋を借りた。というかお母さんが借りてくれました。
ありがとうお母さん。
でも新しい所らしくて、入学式までに間に合わないみたいなので数日幼なじみの家に居候します。
「っし!」
ドアを開けようと手を伸ばした瞬間、向こう側から勢い良く開けられた。案の定、避け切れずに肩を強打した。
「待ってたぞ、なまえ」
「いっ〜〜!」
「そんな所で何をしている。さっさと入れ」
痛みに悶える私をちらりと見て、謝りもせずに涼しい顔で戻っていく。なんとも言えない気持ちになってのろのろと立ち上がった。もう少しくらい優しくしてくれてもいいと思うんだ。
「さっさと入れと言ったんだが。お前の荷物が邪魔になっている」
やだもう、怖い。
「……」
「ご、ごめん」
無言の圧力には勝てません。なんで開眼するんだろう。滅多にしないくせに!
ぶつぶつ言っているのが聞こえたのか、くるっと振り向いた。
「なまえ、」
綺麗な顔でニヤッと笑う。背中に悪寒が走った。どうしよう嫌な予感しかしない……!
「夕飯は楽しみにしていろ。ちょうど母さんからトマトが届いたんだ」
「はぁっ?」
そんな気はしていました。
本当に変わってない。いや、変わるわけがない。
ああ、そっか。昔から私に対してはこんなだったっけ。貞治はあんなに優しいのに。
「冗談だ」
「なんだ! びっくりさせないでよ!」
「使いきらねばならないから小出しにしていくさ。さぁ手を洗って来い」
冗談になってないよ。分かってたけどね。うん。
とりあえず手を洗いに行こう。料理上手いから美味しいの食べられるのは嬉しい。トマトは別として。
「ちなみにトマト残したら掃除させるからな」
「……頑張る」
なんで蓮二ってこうなんだろう。