参ったな世界
「当家主催のパーティーへ、ようこそおいでくださいました。本日は私がご案内致します」

「あら、まあまあ! では貴女が?」
「はい、娘のなまえと申します」

なぜ私がふわふわのドレスを着て、かしこまった口調で、こんな煌びやかな場で、穏やかに微笑んでいるのかというと、少し長くなるのだけど聞いてほしい。

そもそも母は父を亡くしてから女手一つで私を育て上げたパワフルお母さんである。まだ小さかった私には父の記憶もあまりなかったけれど、生活に不自由した記憶もないし気楽なものだった。住んでいたのがうっかりうちの学区だったりしたもんだから、尚更苦労したんだろうと思う。
そんな母がこんな素敵なおじ様と、いやもうお義父さんか、まあ、なぜ再婚するに至ったかざっくり言うと、母に胃袋を掴まれたということ。とある会議で偶然手配されたお弁当屋さんの味を気に入り常連さんになったおじさ、お義父さんが、作っているのが母だと知り猛アタックをかけたらしい。後はドラマみたいななんやかんやがあったらしいが詳しくは教えてくれなかった。

後は、母の元来のサプライズ好きと似たような性格だったお義父さんがノッてしまい再婚した今日の今日まで教えられなかったという、なんともとんでもない話だ。幸せになってほしいと思っていたが、突然すぎて受け入れるも何もあったもんじゃない。もうちょっと事前に相談とかあっても良かった。
帰ったらアパートに入れず、立ち往生していたら黒塗りの高級車が横付けして、まさかまさか、ドレスに身を包んだ母が降りてくるなんて。そのまま車に乗せられて停まったと思えば式場で、私も着替えさせられて、あれよあれよと結婚式。

そして極め付けがこれだ。

なまえ、ずっとお兄ちゃんが欲しいって言ってたわねぇ、と昔の子供らしい無茶振りを引っ張り出してにこにこしている母を尻目に私は慄いた。

隣におわすこのお方は我が氷帝学園の生徒会長にしてテニス部部長、俺様何様跡部様その人だ。彼も私と同じような状況だったらしいのに現状を把握してからの再起動が格段に早かった。

「再婚相手の苗字がみょうじで、娘の名前がなまえだって言うから、ただの同姓同名であることを願ってたんだが。こうなったからには徹底的にやるぞ」

すぐさま、数日後に控えていた披露パーティでの立ち居振る舞いを私に叩き込み始めたのだから感心してしまった。

こうして私にたった数日違いの兄ができ、淑女のような立ち居振る舞いをしているという訳である。
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