「……さん。 なまえさん 」

ううん……、テレビ消し忘れた?同じ名前の人っているもんだなあ……。ぼやっとそんなことを考えていたらシャッとカーテンの開く音がして視界がうっすら明るくなった。その瞬間、意識がグッと急浮上した。

うん?私しかいないのにどうしてカーテンが開く?

「っ!?」
「やっと起きましたね、なまえさん」

思わず飛び起きると目の前に綺麗な顔があった。
なにこれ。どういうこと。
私は自分の目を疑った。いや、だってまさか。

「なまえさん?」
「あっ、お、おはようございます? 」
「はい、おはようございます。じゃあ俺リビングにいるから顔洗ってきてくださいね」

彼は満足そうに笑って、状況が飲み込めない私を置いて部屋から出て行った。

待って、思い出して私。
えーと、昨日は親友の結婚が決まったからその前祝いだった。彼は確か隣に座っていたはず。みんな揃うのが久々でついお酒も進んだけれど。でも何も覚えてないほど酔うなんてそんな。そもそもそんなに飲んでたら帰って来られてないよね。ちゃんと着替えて寝てるわけもないし。……まさか……。
そう思い至った瞬間サーっと血の気が引いていくのが分かった。

「なまえさん? 」

なかなか来ない私に痺れを切らしたらしい彼がひょこっと顔を出す。

「よかった、また寝ちゃったのかと思って」

どう答えたものかと迷って顔をあげると、パチッと目が合った。 なまえさん、とにっこり笑い掛けられる。エプロン似合うなあ。

「なーんにも覚えてないんですね?」
「……うん、だからさ、君がどうしてここにいるのか教えてくれるかな。……幸村精市君?」

私が名前を呼ぶと目を丸くした後、すぐに細めて嬉しそうに笑った。

「ふふっ、ちゃんと俺のこと覚えてるじゃないですか」
「そりゃあ誰かくらいはね……。いろいろ説明してもらっても?」
「そうですね。でも、俺お腹空いちゃいました。とりあえずご飯食べましょう」

言い終わる前に彼のお腹がぐーっと鳴った。
時計を見るともう9時を回っている。普段ならとっくに仕事をしている時間だ。今日が休みで良かった。
そのうちにまた彼のお腹が鳴ったので、とりあえず朝ご飯にすることにしよう。あれ、冷蔵庫に何か入ってたっけ。



***



キッチンにはなんとなく奮闘したらしき残骸が。レンジあれ暴発したように見えるけど大丈夫だろうか。テーブルにはちょっと焦げたトーストとサラダ。

「勝手に冷蔵庫とか開けちゃってすみません。一応頑張ったんですけど……」
「うん、それはすごく伝わってるよ」

私だけならまだしも、彼がトーストだけというのは明らかに足りないだろう。冷蔵庫を確認すると卵は生き残っていた。何も無いよりは、と目玉焼きを焼き始める。後ろでそわそわしているのが分かる。今更ながらこの状況絶対おかしい。

とりあえず食べながら昨日の事を思い出そう。
久々に仲間が集まって、お酒が進んで……。ダメだ、これ以上どうにもならない。幸村君が話しかけてくれても、なんとなく気まずくて上手く会話が続かない。ああ、とかうん、とか気のない返事を何度か繰り返した後、それは唐突に投げられた。

「なまえさん、俺のお願い聞いてくれますか」
「……内容によるけど」
「あー、 本当に何も覚えてないんですね 」
「そうだね、さっぱり。いろいろ教えてほしいんだけど?」

動揺する私をよそに、にこにこしながら食べ進める幸村君。昨日本当に何があったの。何をしたの私……。

「なまえさん、俺をここに置いてください」
「え?」
「昨日、俺と約束してくれたんです。俺のこと奥さんにしてくれるって」

だから置いてください、と繰り返された言葉は私の頭では理解できなかった。酔っ払いの戯言だろうに彼はなぜ受け入れてるんだ。せめて旦那さんとかではなく?と思考が逸れかけたが、そもそも何を言ってるんだ私。何言ってるんだ彼。

第一、私と彼は学生時代にすっかりさっぱりきれいに終わっている。未練なんてこれっぽっちも無かった。そのはずなのだ。それなのにいまさら。


2022.11.22加筆修正
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -