目を閉じるとさっきのみょうじさんの顔が浮かんできた。
自分が嫌になる。伝える勇気なんか無かったくせに、あの光景を見た瞬間に沸き上がった不二に対する嫉妬。諦めた時点でそんな権利俺には無かったのに。
ああ、そうだ、あの時紙飛行機を見つけられなかったのはやっぱりそういうことだったんだ。
じわっと涙が滲む。
なんで、なんでだよ。
涙が溢れるのをぎゅっと目を瞑って堪える。落ち着け、落ち着け。深く息を吐いてゆらゆらと揺れる木漏れ日に身を委ねた。
「こらっ英二!」
「うおっ!?」
ビクッと肩を揺らして目を開くと目の前には触角が。
「おーいし?」
「まったく、何してるんだ英二! もう部活始まるぞ!」
「えっ! うそまじで!?」
落ち着こうとして、いつの間にか眠っていたらしい。部活が始まるということは少なくとも1時間は眠っていたことになる。うわ、午後の授業全部サボっちゃったよ。
「ラケットバックは持って来たから、とりあえず顔洗って着替たらいいんじゃない?」
「う、うん。そうだにゃ」
まともに不二の顔を見ることができない。俺が一方的に嫉妬しているだけなんだけれど。バッと立ち上がって水道に向かう。できる限りのスピードで着替えたけれど開始の挨拶にはギリギリ間に合わなかった。
例によって手塚の怒号が響く。
「菊丸。グランド20周だ!」
コートを出てゆるゆると走り始める。さっきまで寝ていたのと気分が乗らないせいで体が重いような気がする。ペースもなかなか上がらない。足音が増えて、ふと隣を見るといたずらっぽく笑う不二だった。
「僕も付き合うよ」
「……別にいーのに」
「いいからいいから」
にこにこ笑う不二とは裏腹に下を向いて黙々と走る。八つ当たりしてるみたいで気が引けるけれど、やっぱり今は放っておいてほしかった。
「ねぇ英二。僕、六角に彼女いるんだよ」
「ふーん。……は?え?」
頭を殴られたような気分になる。一瞬何を言われたか把握できなかった。かなり間抜けな顔をしていたんだろう。また繰り返された。
「だから、六角に彼女」
文句とか驚きとか次々に湧いてきた疑問とか、言いたいことはたくさんあるけれど、とりあえず。
「良かったー!」
「英二には言ってなかったからね」
「なんだよー! 早く言えよー!」
「ごめんごめん」
と、言うことは。
「みょうじさんなら図書室にいるよ」
「っ! ごめん、上手く言っといて! ありがとう!」
走り出す。俺も、この気持ちも。もう止まらない。止められない。
今すぐ伝われ、君に!