あれ、不二とみょうじさんて話すくらい仲良かったっけ?
なんでなんで?
あ、実は不二もみょうじさんが好き、とか?
いやいや、え、えぇ? えぇぇ!?
いやいやいや!
今すぐに駆け出しそうになるのをどうにか抑える。そっと顔を上げてみると、不二は相変わらずにこにことこっちを見ているし、みょうじさんは固まったまま。目を閉じて頬杖をつきながら考えを巡らせる。どうしよう。どうしたらいい?いくら考えても良い答えは出てこない。
やっぱりこういう時は
「っ、みょうじさん!」
行動あるのみっ!
「うわわっ! 菊丸くん!?」
みょうじさんが手に持っていた物をグシャッと音を立てながら後ろに隠した。やっぱり俺に見られたくないんだろうか。なんだか悲しくなってきた。
「あのさ!」
「う、うん?」
「さっき……、さっき不二と何話してたの?」
出たのはさっきまでの勢いからは程遠い、震えていて小さい情けない声だった。聞こえていないかと思ったけれど近くにいた人からは視線が投げ掛けられる。みょうじさんも驚いたのかもともと大きな目を更に大きく開いている。自分でも恥ずかしくなって視線を逸らすとその先で不二がくすくすと笑っていた。
「あの、菊丸くん、何でもないから。ちょっと落とし物届けてくれただけなの」
頬を真っ赤に染めながら否定される。可愛らしいけれど、俺には関係ないと一線を引かれたようでそれ以上踏み込めなくなる。
「……そっか。ならいいや! ごめんにゃ!」
「えっ」
居た堪れなくなって足早に教室を飛び出す。後ろから呼ぶ声が追い掛けて来るけれどどんどん進む足を止められない。
「ま、待って菊丸くん!」
「ごめんっ、なんでもないから!」
途中から足がスピードを上げて、追い掛けて来る声は遠ざかっていく。しばらく走り続けると始業の鐘が鳴った。廊下に出ていた人達がわらわらと教室に戻って行く。その流れに逆らいながらスピードを緩める。
足が完全に止まって自然と上を見上げる形になった。
そっか、みょうじさんは不二が好きなんだ。あんな顔されたら嫌でも分かるよ。
「ほんとダメじゃん、俺」
ため息が出る。俺、本当にどうしたらいいんだろう。俺に一体何ができるのか。