どうしても伝えたくて手紙を書いてみた。授業もそっちのけに。むしろいつもより集中はしたかもしれない。たった4文字。書くのはそれだけなのに、なかなか手が動いてくれなかった。
渡すことはきっと無いけれど、それでも、言葉にしたのは間違ってない。この一言に込めた想いは誰にも負けない。

みょうじなまえさん

好きです


名前が無ければ見られても書いた人までは探せないだろう。きっと俺だとは分からない。時計を見るとあと数分で鐘が鳴る。急に照れ臭くなって、その手紙で紙飛行機を折り始めた。これでもかというくらい丁寧に折ったそれはよく飛ぶだろうなと思った。

出来上がった紙飛行機を手に教室を出る。次が昼休みだからか廊下にいる人はあまり多くない。授業が終わったばかりな所為もあるのかもしれない。ほとんどの窓は開いていて心地良い風が入ってくる。
ふと外を見ると、体育だったであろうジャージの人達が戻って来るところだった。その中にはさっきまで考えていた人の姿もあって、思わず立ち止まった。
忘れ物でもしたのか集団を抜けて一人で校庭に戻って行くのが見えた。

立ち去ろうとした時。何を思ったのか自分でも分からない。手の中のそれを窓の外にに向けて飛ばしていた。優しい風に運ばれてふわりと飛んでいくのを見てハッと我に返る。手紙を見られても自分の名前は書いていない。それでも、この想いが誰かに知られてしまうのはなんだか癪だった。

階段を駆け降りて昇降口へ向かった。外へ出ると熱気が体に纏わり付いてくる。辺りを見回しても紙飛行機はどこにも無い。
校庭を探してもそれらしき物は見当たらなかった。
拾われたのか、風が学校の外まで運んでしまったのか。

「あーあ、何やってんだよ俺、ダメダメじゃん」

持ってても仕方ないか、と思い直して教室に戻る。購買に寄ろうとして財布を持って来なかったことに気付いた。2、3歩離れた所に見覚えのある後ろ姿が見えた。そっと近寄って飛びつく。

「もーもっ! 俺にもパンちょーだい!」
「え、英二先輩っ、ちょ、重いッス! 離れてくださいよ!」

背中から離れると抱えたパンの山からいくつか手渡された。質より量らしく受け取った側からまた増えていく。

「桃、助かったー! あとでなんか奢るかんな」
「じゃあ今日帰りになんか食いに行きましょーよ! 越前も誘って!」
「おっけーい! じゃあ後でな!」

階段を上りながら考える。あの手紙が無くなったのはやっぱり渡すべきじゃないってことだったのかもしれない。

「それはちょっと残念だー」

飛べ、飛べ、この想い!

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