■ ■ ■

「へぇー。仁王がねぇ」

……ばれた。あっさりばれてしもうた。ぜーんぶ丸井のせいじゃ! 目を離したんが間違いじゃった。ああああ何やっとる10分前の俺ー!

「丸井、明日の弁当どうなっても知らんぜよ」
「なんでだよ! 別にいーだろ! どうせばれるんだから!」
「そういうことじゃない!」
「俺、協力するけど」
「え、」

思わぬ言葉に衝撃が走った。幸村の方を向くとそれはもう爽やかな笑顔を向けられ、何も言えないまま固まってしまった。その様子を見て幸村はくすくす笑う。

「そんなに驚かなくても。ってことで俺ちょっと行ってくるね」
「どこに?」
「みょうじさんのとこに決まってるじゃないか」
「は?」

いや、まあだろうとは思っとったけど。だからばれたくなかったんに! 幸村なら行く。絶対行く。
いや、でもみょうじさん部活とか無くてもう帰っとるかもしれん。お願い帰ってて!

「なぁ、幸村くんもう行っちゃったぜ」

その一言に幸村がいたはずの場所を見ると跡形も無い。サーッと血の気が引いたのが分かった。丸井に鞄を押し付けて走り出す。後ろから呼ばれたけど気のせいだ。ということにする。

「あーあ。幸村くんには追いつけねぇって。部活どーすんだよぃ」


学校中を走り回った。それなのに結局幸村には追いつかんかった。どこ行ったんじゃ。みょうじさんに会ってないことを願う。
さすがに息が切れる。教室が近いしちょっと休憩。こんな状態で部活行っても使い物にならんしの。

少しだけ休むつもりが、ひだまりのぽかぽかと暖かい空気のせいで感覚が溶かされていく。
睡魔に負けて机に突っ伏した。ちょっとじゃ。ほんの少し。すぐに起きるから。


ドアを開く音がして足音が近付いて来る。聞こえてきた声はみょうじさんだった。
なんじゃ、俺ええ夢見とるの。幸せじゃー。なんとなく頬が緩む。
ふわりと頭に乗せられた温かい感覚に意識が浮上した。

ぱちっと目を開くとすぐ隣にみょうじさん。すーすー寝息をたてながら寝とる。あー寝顔も可愛い。……いやいやいや、っつーことは

「……夢じゃないんか」

思い出したらかーっと顔が熱くなる。もうだめじゃ、近い!ドキドキするわ!よし、寝る!
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