振り返るとそこにいたのは柳君だった。
「どうしたの?」
「すまないが、このプリントを弦一郎に渡してもらえるだろうか」
眉を寄せて申し訳なさそうに言われると断れるわけもなくて。
「うん、分かった。ちゃんと真田君に渡しておくね」
「いつも助かる。では頼んだぞ」
そう言って足早に去っていく後ろ姿を見送る。すごく忙しいんだろうな。
教室に戻ってすぐに真田君を探す。真田君は身長もあるし、なんというかオーラもあるからすぐ分かる。
案の定、大して時間も掛からずに見つけられた。誰かと話しているようだ。
「真田くん」
「む。どうしたみょうじ」
「話してるとこごめんね。これ、柳君から」
「蓮二から? ああ、部活の連絡だな。助かった」
プリントは部活のものだったらしい。ちゃんと渡したからね柳君!
「真田、俺にも見せて」
真田君と話していた人が振り返る。あ、髪の色綺麗だな。
ふと目が合った。そのままじっと見つめられる。
あれ、前に……?
「……また会えたね」
そう言って微笑む彼。
綺麗に笑う彼の顔を見つめる。
鮮やかに蘇る桜の記憶。
「え、どうして、」
「覚えててくれたんだね。うれしいなあ」
にこにこしている彼とは逆に私は混乱していた。あの時、一度しか会えないと思っていた彼が、こんなに近くにいたなんて。
「だから言ったでしょ? また会えるって」
クスクスといたずらっぽく笑う、彼の眼に宿る光が前よりも強くなっていて。圧倒された私はただただ呆然としていた。
「また会えてうれしいよ、みょうじさん」