「あ、あの……」

ひらひらと花びらが舞う中、緩やかなウェーブのかかった髪を風に煽られながら佇む姿が、今にも消えてしまいそうに見えた。思わず声をかけたけれど、なんて言いたかったのか分からなくて。

「……はい?」

彼は不思議そうな顔をして振り返った。目が合ったけれど言葉がつっかえてしまって出てこない。そもそも、人見知りの私が初対面の人に声をかけるなんてこと、まあ無いのに。

「……えーと、桜、綺麗ですね」
「そうですね。とても」
「……」
「……」

にっこりと笑ったその顔は、やっぱりどこか寂しそうに見えた。もう立ち去らなければと思うのに、動けなくて。少しの間一緒に桜を眺めていた。
ふいに彼の携帯が鳴った。少し離れた私にも聞こえてきたのは怒ったような、泣きそうな声。応じる彼の声はとても静かだった。

「ごめん。大丈夫だよ、すぐ戻るから。うん、うん」

携帯をしまいながらこちらに向き直るとまたにっこりと笑った。

「なんだか、また会えそうですね」
「え?」
「俺の勘ってけっこう当たるんです」
「そう、なんですか?」
「うん。絶対に会えると思います」

彼の顔に、寂しげな様子なんて微塵も無くて、私の気のせいだったのかと思った。さっきまでとは違う人のようで急に眩しく感じた。

その彼が、立海テニス部を率いていることをこの時の私はまだ知らない。

出逢いました

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