銀土





別れ際はいつも寂しかった。だからといって素直に寂しいからまだ傍にいろなんて言えるわけでもないし、ヒラヒラと揺れる手のひらを掴めるわけでもない
ただ彼の後ろ姿がいつも、寂しくて悲しくて仕方がなかった



「じゃあまた」

ちゅ、と軽めのキスに身体中が震える。こんなキスじゃ物足りない、そう訴えている身体に嫌気がした。だけど、同時に嬉しかった。このキスはまた明日、という約束の意味を表していたから
また明日も彼に会える。会って、いいんだ。彼はこうして俺が素直になれないのをわかっていて、別れ際のキスでまた次の約束をしてくれた。
彼はいつも優しかった。
その優しさが時には辛くて、当たったりもした。だがそんな時も彼は、優しく微笑むだけだった。
その優しさにどれだけ救われてきたことか。返しても返しきれないほどの優しさは、俺の心に確かに染み込んでいった。今日もまた俺は、おまえが大好きだったと 別れ際のキスにのせて彼に瞳で訴えかけてみたが、彼はまた、静かに微笑むだけだった。






「ごめんな」

とうしろう。
彼は泣いていた。俺の肩に顔をうずめて、俺の右肩に静かに雨を垂らしていた
ず、という音と共にあげられた顔は、今まで見たことがないくらい綺麗だった。
ああ。涙に濡れた彼の赤い赤い瞳も吸い込まれそうなほど綺麗だった。彼の瞳をまじまじと見たのは今日が、最初で最後だった


別れ際のキスをする。涙の味がした。また明日、への約束ではない。
さよなら。
明日からもうさよなら、の意味を表していた。
ヒラヒラと揺れる手のひらも、離れていく彼の背中も、もう俺のものではなくなる。寂しいとか悲しいだとか、思うことすらなくなってしまう

行かないでくれ。
そう叫んだ。
だが彼は振り返らなかった。
遅かったんだ、彼に自分の気持ちを伝えるのが。
別れ際が寂しかったあの日、もし彼の背中に向かって行かないでくれ、と
それさえ言えていたなら
彼はきっと
俺たちはきっと、


「行かないで、くれ…」

離れることなどなかった
素直になればよかった。
返しても返しきれない優しさに甘えればよかった。
ヒラヒラと揺れる手のひらを掴んでしまえばよかった。
ごめんな、と伝えた彼の言葉に、返事をしてやればよかった。
愛していると、伝えればよかった。
なあ。銀時



「とうしろう」

声がした。うつむいていた重い頭をあげればそこに

今度こそ、
今度こそ俺は伝える。
戻ってきてくれた彼の優しさに、甘えるんだ。


「好きだ、」

まだ間に合うといいなあ





プラトニックアスター
110220

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