沖田(真選組) 死





俺たちはずっとずっと、壊れることのない腐れ縁だった。もう体の一部くらいの感覚で、俺たちはずっとずっと一緒にいた。今でも昨日のことのように思い出すあの夏の日の花火を俺は、忘れたことなど一度もなかった
離れる時がくるその日まで




「土方さん」

じゃり、じゃり。
眼下にある赤色の砂利を踏みながらもう何百回と呼んだその名を口にした。震える手足を叱咤し、彼の目の前に腰をおろせばその切れ長の目がそっと開かれた

「…総、悟か」

彼もまた何百回と呼んだ自分の名を呟きながら、月明かりに照らされた木の下で煙草をくわえ、火をつけた。
震える指先を俺は見ないフリを、したかった

「…近藤さんは」
「大丈夫です、心配ありやせん。」
「…そうか」

ふう、とはかれた白い煙は風にのって天へと昇る。
俺はその行方を目で追いながら、土方さん、と言った。なんだ、といつもより切れの悪い声で返事が返ってきた

「月が綺麗ですねィ」

そう言うと土方さんは少しだけ目を丸くして、それから目を瞑り、ふ、と弱々しく口元を緩めた

「そうだな」
「…今笑ったろ、土方コノヤロー」
「いんや、おまえにお似合いのセリフだなと」
「…。ばかにしてんですかィ」

月が綺麗。心からそう思った。だけどそれをなんで土方さんに伝えたのかはわからない。元々俺たちはすぐいがみ合う仲で、こんな些細な会話などもう何十年としていなかった。ただ俺がバズーカを持って彼の元へ行き、彼は俺の挙行に声を張り上げるだけで。ただそれだけで、俺たちの関係は成り立っていたんだ
ずっと
それが心地いいだなんて
ずっと俺は、この立ち位置が好きだった

「総悟」

じゅう、と煙草が地面におしつけられる音がした
その音はなんだかあの日の花火が消える音に酷似していた

「近藤さんを、頼む」

震えるその声だって、みんなみんな聞こえないフリをしたかった
いつになく弱々しいあんたのそんな声なんて、死ぬまでききたくはなかったんだ。いつまでもいつまでも、あの張り上げられた声をこの鼓膜に、焼き付けておきたかった

「頼む…」

そう言った土方さんの瞳は、いつになく真っ直ぐで澄んでいた
だけど俺はあんたに謝りたいことがひとつある。だからそんな真っ直ぐに俺をみないでほしい、と切に願った

「…わかりやした、命にかえても近藤さんを」
「おまえも…」
「、はい?」
「おまえも、…おっちぬんじゃねーぞ」

ざわりと風が木々を揺らした。なにをいってるんだろうこのひとは。自分が一番重傷で、息だってもう虫がはくみたいな息で。そんなあんたがなんで俺の心配なんかするんだ
あの夏の日も
普段の暮らしも。
彼はいつだって自分なんか二の次で、一番に他人を心配してくれていた
鬼の副長、と呼ばれたあんたの仮面からわずかにもれた優しい光は、もう隊士みんなに照らされていたんだ。
わかっていたんですぜ、土方さん。みんなみんな。
あんたは鬼の仮面を被った、優しい優しい男だったことを

「土方さん」

だからあんたもこんな名のしれねえ土地なんかでおっちぬのなんてやめてくだせえよ。あんたにゃあんたの、似合いの場所があるんですから、と震えてしまう喉を必死におさえながら言えばあんたは、くすりとわずかに微笑んで、ああ、と言った。その笑顔はいつになく優しく、そして嬉しそうで。ぽとりと落ちた煙草と共にあなたは、そのまま眠るようにこの世を去ってしまった











『姉上、花火もってきました!』
『あらありがとう、そーちゃん』
『へへ』
『…おい火をつけるやつは』
『あ、ここにマッチがありやす……ってなんで土方がいるんでさァ!』
『私が呼んだのよ』
『えー!姉上こんなやつと花火したら姉上の体調がっ』
『言うなてめえ…』
『ぎゃー!姉上たすけっ』
『お?なんだなんだ、騒がしいと思ったらおまえたちか』
『あら近藤さん、こんばんは』
『近藤さんたすけてええ』
『ガハハ、仲が良いなあおまえらは』
『『どこが!!』』
『そういうとこだよ』
『ふふふ…』






「…わりい土方さん」


本当はもう。
近藤さんも山崎も、みんなみんな。
俺だけがおっちねなかっただなんて情けないにもほどがある。自分だけが助かるだなんてそんなのは御免だ、土方さん
真選組は壊滅。ずっとずっと壊れなかった腐れ縁ももう俺だけを残してみんな消えちまった。そんな世界のなにを生きようか。死んだも同然だろう、今の世界は。さようならもありがとうも、言えずにこの世界をたつのは惜しいと思う。あんたたちが、あなたたちができなかったのだから。










夏の花が遠くで咲く音がした。さようならの合図だ。
あの日きいた線香花火の音色は、どの夏に咲く花よりも美しく鳴り響いたことを胸に、俺はこの世界にたくさんのありがとうを残したい。目を瞑れば鮮明に映し出される花火の色を心焼きつけて、最期の挨拶をあんたの傍で告げよう



『…ん』
『…はい?』
『やるよ』
『なに言って…これ最後の線香花火ですぜ?それにあんた、一個も花火…』
『いいから』
『……変なやつ』
『はは、』
『おー!トシが笑った!ミツバ殿、トシがっ…』
『う、うるせえ!』
『ふふふ、ほんとう』
『……土方コノヤロー』
『な、なんだよ…』



ありがとう。




遠い夏の日
110220

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