戦争時代 銀土+沖神





「…それ」

激しい爆発音の中で聞こえた、隣で銃を構える栗毛の少年が口を開いた。それ、と言って目線をくれず指したものは、首からぶらさげていたはずの、ある、物だった。泥まみれになり汚くなってしまったそれを俺は拾い、壊れてしまったチェーン部分から指をすべらせ、本体をぎゅう、と握りしめた。ヒヤリとした感触に、一瞬瞳を閉じた

「…この戦争が終わったら、式を挙げる約束をしてる」

だから。爆発音のなりやまぬ大地で銃を構え、土煙のむこうにいる兵士を狙う。隣で銃を構えていた彼は、爆発音に紛れた俺の言葉に目を丸くしていた

「俺もあいつも、最後の最後まで戦いぬくことを誓い合った」
「…」
「最後の、…最後まで」

隣で聞く彼の顔がくしゃりと歪んだ。チャラ、と薄汚れた金属のそれをてのひらに乗せて見つめる。彼の笑顔が眩しく光った

「…俺も」

それを見つめていた彼が、口を開いた

「俺も、」

いるんです。俺が出頭する間近までバカみたいに、わたしが殺すまで死ぬなよ、と言い続けた可愛くねえやつが。帽子の鍔でくいっと瞳を隠すと彼はそう言って笑った。そうか。彼も、

「そりゃおっかなくて死ねないな」
「ええ。…だから帰ったら死ぬつもりなんです」
「…そうか」

はは、とお互い笑い合った。その拍子に彼の隠された瞳から一滴だけ涙が零れ落ち、地面を一ヶ所だけ濡らした。できないことはわかってる。彼女の手で死ぬことができないのも、式をあげることができないことも。永遠の別れになるということを、俺達は、彼女達は、


「…結婚式、」

は、として彼を見つめた
彼はうつむいていた顔をあげていて、涙で濡れた瞳でしっかりと、笑っていた
笑っていたんだ

「俺達も呼んでくだせえよ」
「…当たり前だろう」
「旦那の着物姿見て、似合わねえって盛大に笑ってやります」
「はは、ひでえ奴」

笑い合ったこの場所ももうすぐ焼け野原となるんだろう。土煙が止みそうになる。ガチャリ、と銃を構え直した。

「…旦那」
「…なんだ」
「帰ったらまず、なんて言ってやります?」
「…」
「俺はもちろん、」
「…」

彼は最後の最後まで、笑っていた。泣きながら、笑っていた。彼女のことを愛していたんだろうと思う。銃が乱射する音が聞こえた。すかさず俺は歯を食いしばり、ほんの一瞬敬礼をする。彼の勇姿は見届けた。勝ち目のない戦もこれで、俺で、終わる。すう、と静かに深呼吸をした

「…帰ったらまず、なんて言うかなんて決まってんだろう」

脳に浮かぶ、笑顔を浮かべた愛しい彼の姿。おかえりって、彼は笑ってくれるんだろうなあ。そんで彼に求婚して、彼の白無垢姿なんか最高に可愛いんだろうなあ。照れ笑いなんかしちゃって、悪態づくんだろうなあ。あんま見るなよ、いいじゃねえか、ばかやろう。

「…結婚しよう、土方」

帰ったら言うさ。必ず。
はっきりと聞こえてきた足音と共に、銃を発泡した











「…ばかやろう」

遠い空の下でそう、呟いた。涙で頬が濡れる。その涙を拭き取ることもせず、俺は空を見上げた。歪んだ視界にはっきりと、出頭する最後の最後まで笑っていた、彼の笑顔が浮かんだ。なんて間抜けな面してやがんだ、と、ふっと笑えば彼は、困ったように笑いながら言うのだ。しあわせだ、と。
ぐいっと涙を拳で拭き取る。そしてもう一度、空を見上げた。どこまでもどこまでも続く星空(彼、)に向かって、敬礼をした





真夏の夜の夢

110220



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