沖神





最後の最後まで
わたしたちは恋をした

幸せでしたと
花を添えて





「どこへでも行けばいいアル」


私の言葉に彼は頷いた
背中合わせでよかった、と
震える手で涙を拭う
彼は頷くだけで何も言わず
ただちょっと、触れる背中が
揺れてただけで

「…どこへでも」

これ以上は何も言えなかった
喉が震える
言葉が震える、
彼を失いたくなかった
でも、私には
私達にはどうすることもできないからこそ、わたしは彼に何も言えなかった
いかないで、とか、嫌だとか
私も連れていってだとか
ずっと好きだった、とか
たくさんの想いが重なって
重なって
何も言えずに 見送るだけ


「…最後に」

彼が、ぽつりと
静寂に向かって呟いた

「顔が見えなくてよかった」

こつん、と
わたしの頭に彼の頭が

「逝けそうだ、」
「沖、」

振り返ろうとしてハッとした
彼が望んだように
わたしも彼の最後は見ずに
ただただ、瞳を瞑って
ふ、と
彼の背中が
ああ、
彼は 逝ったのだ と


静寂が痛かった
彼がいなくなったのだと
再認識されそうで
顔は見なかった
だけど、
最後に彼に触れたかった
背中合わせのまま
震える指先を、彼の指先に

「、」

当たり前だけれど
彼は体温を失った
あんなに温かくて優しい手が
こんな 冷たく

震える手で握りしめた彼の手には、なにか紙みたいなものが握りしめてあった
力をなくした彼の手から、それがヒラリと地面に落ちて
わたしはそれを拾って
言葉をなくした

彼らしい走り書きのような
大人びた字で、
“好きだ”の
三文字が―











わたしたちは
最後の最後まで、恋をした

幸せでしたと
彼の亡骸に 五文字の紙と
花を添えて




三.五の想い
120731

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