銀土





「、」

大きく見開いた、赤い赤い瞳。その瞳は今すぐにでも涙がこぼれおちそうなくらいゆらゆらと揺れている。何も喋らない口は震えていて、手はだらりと垂れ下がっていて。今のこのヒトを一言で言えば、今すぐにでもくずおれてしまいそうなほど脆く、儚かった。
震える細い足を叱咤し、ぺたぺたとジュウニンに近づく。抱きしめてあげたかった。この、脆くて仕方ないヒトを、俺は抱きしめてあげたくて仕方なかった。普通は逆の立場なのに、会いたかったと泣きながら抱きしめられる立場なのに、俺は、固まったまま立ち尽くすこのヒトを、ぎゅっと抱きしめたくて仕方なかった

「…」

抱きしめた俺の肩に、ポタリと何かが落ちた。冷たかった。抱きしめた腹の辺りから顔をあげれば、このヒトは声を押し殺してただただ涙を落としていた。噛みしめた唇からはつう、と血がつたり、ぎゅっと閉じた瞳からはボタボタと大粒の涙がこぼれ落ちる。脆く見えたこのヒトは、脆く見えたのではなくて、本当に脆かったんだ。

「…ん、で」

ぽつり、と
このヒトは震える唇をゆっくりと開いた。なんで、なんで、たしかにこのヒトは何度も何度もなんで、と繰り返していた

「なんで、あいつなんだ…」

髪も眉毛も、瞳も鼻も、口も、なんであいつなんだ。なんで全部あいつなんだ。どこかひとつでも違ったなら、おまえはあいつじゃないと言えたのに。なんで。なんで、なんでおまえはあいつなんだ、なんでおまえなんだ、なんで、なんで、なんで、


「…」

酷く苦しそうに掠れた声でこのヒトはそう言った。見上げる瞳と見下ろす瞳がぶつかる。このヒトの瞳にはたしかに、俺ではない俺が映っていた。
俺はなんの為につくられるのだろう。届けられたジュウニンの人が悲しみから救われるように?少しでも痛みが和らぐように?また前みたいな生活に戻ってもらうように?
答えはでなかった。だってこのヒトはどれも違った。悲しみも痛みも過去も、みんなみんな俺で癒されたいとは思っていなかった。むしろそれらは俺が来たことによって、余計につらくなる方向へとむかった。俺はたしかにこのヒトの大切なモノの形であって、だけどそれは形が同じだけであって、このヒトがかつて大切にしてたモノと同じように俺に気持ちを向けられるかといったらそれはきっと、このヒトにとって無理なんだろう。いくら形は同じでも、このヒトと大切なモノの間にあった大切ななにかとは同じになれないんだから。

「…ごめん、なさい」

ぎゅ、とこのヒトのお腹を抱きしめながらこれしか、言えなかった。これ以外言えなかった。俺が来たことによってこのヒトの、いつか忘れられる痛みを引き止めてしまったから。俺が来なければ、いつかかつての大切なモノを想い出として大切にしまえたはずだったのに。なのに。俺が、俺が、


「ごめん、なさい」


俺はどうして生まれたんだろう。






アンチクローン
(このヒトはまだ、なんで、と問いかけていた)

110308

終わり方がわからなかった罠




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