銀土 既婚者坂田










はっ、はっと途切れ途切れの息遣いが響いた。火照る顔にひやりとした掌が触れて、ぎゅっと閉じていた瞳を開いた。ぼんやりと映る視界に、余裕のない顔がみえた

「っ、…」

途端、ゆうえつかん、とやらが込み上げてくる。カーテンから漏れる光を最後に、またぎゅっと瞼を閉じた。朝、ということは、俺たちはあのままずっとホテルでこうしていたのだろう。本来なら彼は、自宅にいるはずなのに。
その彼を独占できたゆうえつかんと、なんとも言えない虚しさ、が込み上げてきた

「、ひじか、…」
「っ」

びくんと揺れた身体と、熱い吐息が俺の首筋に触れる。あたたかい。余韻に浸る俺の汗ばんだてのひらを、ぎゅう、と彼が強く握りしめる。握られた掌の温かさに、きゅうっと胸がしめつけられた

「…、わり、…」
「いや…」
「…あ、そろそろ」
「時間、だろ」
「……わりい」

温かいてのひらが離れて、ひんやりとした空気がてのひらを包む。カタ、という音に目線をやれば、金色に輝くそれを見てしまった。

「…じゃあ、また」
「…」
「…愛してるよ」

パタン、としめられた扉に背を向けたまま、俺はシーツにくるまった。冷たい。火照った身体が冷えていく。熱かった息遣いも今では、もう、


「、っ」

愛してる、といった彼の虚無な言葉も、あたたかい彼の温もりも、みんなあの金色に輝くそれに奪われていく。嘘だとわかっていてもなお、彼の愛してる、という言葉に俺の心は馬鹿みたいに昂る。ああ、ああ、ばかだ、ばかだ、シーツをきつく握りしめてみても、いまだ余韻に浸っているこの体も、嘘みたいに冷えた息遣いも、

「…坂田、」

もう虚しさしか込み上げてこなかった






なんて悲しい日常
(愛してるなんて言わないでくれ)

110418



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