銀土







「たとえばこの世界の1%が真実だとして、残りの99%は嘘で成り立ってる」


ぽつり、と突然隣にいた彼が呟いた。いやにらしくもないことを言うので、はあ?と笑みを浮かべながら彼の方へ寝返りを打つと、彼は薄暗い天井を見つめたまままたぽつり、と呟くのだ

「その1%は極僅かの善者の真実で、残りの99%は偽善者の嘘だと思わねえか」
「…意味わかんねえ」
「要はこの世界に真実はないってこと」

はは、と笑いながら移された瞳は、酷く濁っていた。普段から死んだ魚の様な目をした彼だったが、今日は一段と色を失い瞳はまったく笑っていなかった。突然の彼の変化に、俺は眉を潜めた

「いきなりどうした」
「んや、別に」

少し起き上がって尋ねると、彼はごろりと寝返りをうってしまった。それに合わせて見えた、彼の背中の大きな傷痕。あの日あの時の情景が瞬時に思い出されて、心臓が強く軋んだ気がした


「おまえも俺も残りの99%ってこと」

背中の傷痕がそう喋った。手汗が酷くなり、ぎゅっと掌を握った。痛む心臓を片手でおさえながら、どういうことだ、と問いかけた

「わからない?」
「…なにが」
「この傷痕みて、そんな苦しそうな顔してんでしょ?」
「…」

ごろりと彼はまた寝返りをうつ
その口元は軽くつり上がっていた

「罪悪感、責任感、同情。だから土方くんは俺とセックスするんでしょ」

それが、残りの99%である証拠。所詮、所詮、土方くんは俺が好きだから、俺とセックスしたいから抱かれてるわけじゃない。そして俺も、土方くんが好きだから、セックスしてるわけじゃない。わかる?わからない?俺達は結局、偽善者なんだよ。うわべじゃ好きだなんだって良いこと呟いてるけどさ、本当は違うわけなんだから。

「…」

何を、言ってるのかわからなかった。彼がなにを笑っているのかわからなかった。わかりたくも、なかった。俺がおまえとセックスしてる理由を、そんな、そんな風に捉えられていたなんて。目の前が霞む。彼の姿が、霞む。彼はまだ笑っていた。おかしくなってしまったみたいだ。

「偽善セックスも終わりにしようか」

くすり、と
彼は未だ笑っていない瞳をしたまま、笑っていた。






偽善ニヒリスト

110226


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