現代銀土 
こひねがうの続編




生まれ変わったらまたおまえに会いに行く。










「…またか」

はあ、と俺はズキリと痛む頭を抑えながらため息をついた。これで何度目だ、この激痛と、どこかで聞いたような言葉が脳に浮かぶのは。目を瞑って痛みがやむのを待っていると、いつも鮮明にその言葉が浮かび、ふわふわとした、なにか白いものが暗闇の中で綺麗に佇んでいる。またおまえに会いに行く。俺はいまの今までこんなセリフを吐いたことはないし、病気になるような生活だってしていない。
ならばなんなんだろうか、この頭痛と、意味のわからない言葉は。ズキズキ痛む頭痛はさらに酷さを増し、やむを得ず俺はそこに腰をおろした。通りすぎる人々が奇怪の目でこちらを見ているのが、雰囲気、でわかる。頭痛に耐えられず目を瞑っていても、何故か俺は雰囲気、というかなんというか、気配というやつで誰がどうしているのかがわかる。何故なんだろうか、

「お兄さん大丈夫?」

ふと、頭上から声がした。今まで誰も俺に声などかけずただただ見てみぬフリをして過ぎていったというのに。ちょっとだけ嬉しい気持ちになる。優しいやつだ、と痛みの中そう思った。
大丈夫です、そう言って顔をあげた。お礼を言いたい、そのために。

「あの、俺なんかのためにありがとうござ…」

います。
その言葉は見事にヒュッと飲み込まれた。
心臓が激しく波打つのがわかる。手汗もひどい、
いったい俺はどうしたというのだろうか。
だが、こんな状態に陥ってるのは俺だけではなかった。声をかけてきてくれた人、も同じように俺の目を見つめながら、あ、と震えた声でそう呟いていた。
お互い言葉をなくす。なぜだかは、わからない。俺はこの男、とは初対面のはずだ、出会った覚えだってない。なのに。

「さか…た」

なんで俺はこの男の名前を知っているんだろう。なんで俺は、さかた、と呟いただけでこんなにも高揚しているんだろう。わからない。なぜ、俺は。

「ひじかた」

なぜ、彼は。
俺の名前を呼び、涙を流し、俺を、
抱きしめているんだろう

「ひじかた」
「さか、た」
「ひじかた、ひじかた…」
「さかた」

ぎゅう、と抱きしめられたまま俺は何度も彼の名を、呼んだ。さかた、さかた、そう呼ぶたびに声が、喉が、震える。さかた、さかた。ひじかた。彼もまた、俺の名を呼びながら声を震わせていた。
通りすぎる人々が奇怪の目で俺たちを見る。だがそんなの構わない。なぜだか、このままでいてほしいと思った。本当なら、なにすんだ、と、彼を突き放すはずなのに。
足らない。足らない。
もっと抱きしめて、もっと距離を近くして、もっと、もっと。
離れないように、ひとつになってしまうくらい強く、強く抱きしめていて、ほしい。
初対面の彼のはずだった。だけど俺は彼を、「思い出した」気がする。
温かい包容に声にならない声で彼の名を、呼び続ける。彼もまた、同じように俺の名を。

「さかた」
「ひじかた」

ゆっくりと見つめ合う。
彼の瞳は懐かしい色をしていた。綺麗に靡く銀色の髪も、目をつむった時に鮮明に浮かぶ、あの色と同じだ。
ああさかた。
さかた。

「また、会えたな」


そう呟くと彼は、あの、優しい笑顔で微笑んだ。


「しあわせにするよ」


東京の街中で抱きあう俺たちを、風が優しく包み込んだ。





午前11時15分
110221

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