銀土 死
風が吹いている。
緑地に爽やかな風が吹くと共に、彼の声がきこえた気がした
「…死ぬのか」
彼は笑った。なに言ってんだ、と。なに言ってんだ、なんて笑うお前がなに言ってんだ、と俺は言った。
乾いた吐息と共に彼はまた笑った。
「まだまだ死ねねーよ」
まだ。まだだ。
彼はそう呟いたあと体を起こし、寝床から見える木々に目を映した。風が吹いている。彼の綺麗な髪を靡かせると共に、彼の声が届いた
「まだ褪せちゃいない」
まだまだだ。明るい陽射しにあてられた木々に手を翳し、彼は目を細めた。
彼は視力を失いかけていた。だから彼は、この目に映るすべてが色褪せた時、死ぬんだと言っていた
そうか、と彼のうなじを見ながら言った
心地よい風がきもちいい。彼はまだ木々を見つめていて、俺も静かに彼の目線の先を見つめた。
「なあ土方」
しばらく2人で外を眺めていると、彼が俺の名を呼んだ。
なんだ、と言うと彼は、
「百年先を信じるか」
と言った
彼の世界は色褪せた。
百年先を信じるか、と言った彼の声は確かに震えていて、こちらを振り向いた彼の頬は確かに濡れていた。
俺はそれを見つめながら、彼の、細くなった手を、強く強く握りしめた。思っていたよりも冷たい体温に、自分の頬が濡れたのがわかった
「百年先もここで待っている」
そう言った後の彼の瞳が、微かに揺れていた
それから、そっか、と小さく呟いて、彼はまた明るい世界を目に映した
彼の世界が色を失うとき、
彼は確かに世界を自分の瞳におしこめた。
百年先を信じるか。
百年先もここで待っている。
だから。
「百年後にまた逢おう」
彼は確かに、微笑んでいた。
確かに此処に在った
110221
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