銀土
彼の髪や指、唇、瞳
彼を形成するものすべてを俺は記憶している
つもりだった
「…」
誰かがいなくなったと聞いた。誰だろう。たしかその姿はどこまでも黒く、いつまでも真剣だったような
キィンとした頭痛に顔をしかめ、ふと部屋を見渡す
煙草の香りがした
「…誰だっけ」
そっと、冷たくなったシーツをひとなでする
そこにはうっすらと、綺麗に散った赤い痕が残っていた
この痕もどこかで見たような、そうでないような
だけど確かに何かを思いだしそうで、煙草の香りが鼻を掠めるたびキィンとした鋭い痛みが脳を支配する
なんだろう
なんだっけ
だれだっけ、
おれのとなりにいたたばこをすう人はいったいだれで、どんなかんけいだったっけ
このまっしろいしーつにとびちる血はなんだっけ
どうしてだっけ
「誰なんだよ…」
一番大切な人の記憶だけが抜ける体質
110220
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