小学生の時病室で初めて“ケンカの王子様”を見た。世界にはこんなすごい人がいるのかと思い感動した。そして俺は日向龍也に憧れ、アイドルを目指すようになった。


「だから俺は絶対早乙女学園に行くんだ!!」


『翔ちゃんならきっとなれるよ。頑張れ』


「おう。アイドルになれたらお前は俺のファン第一号な」


『もちろんそのつもりだよ』


そう言って名前はいつも笑った。幼馴染の名前は俺がアイドルを目指すことを応援してくれた唯一の人物だ。親や医者は俺がアイドルになることを反対している。お前の体じゃアイドルのような多忙な仕事は無理だ。そんな無茶をしたらいつ死ぬかわからないと言う。

でもそんなことやってみなけりゃわからない。それにいつ死ぬかと怯えながら何もない人生を送るなんて嫌だ。どうせ死ぬならやりたいことを精一杯やって死にたい。


でも母さんや父さんの気持ちもわかる。自分より早く子供に死んで欲しくないはずだ。親より先に死ぬなんて一番してはいけない親不孝だ。わかるからこそ俺はどうしていいかわからず、ずっと中途半端なままでいた。

いつだったか名前にその話をしたことがあった。すると名前は笑ってこう言った。


『じゃあ翔ちゃんは星になるかもしれないね』


生きている時に精一杯生きた人間は星になる。それは生きている時の輝きを後世に伝え、残された者や未来の子孫の歩む道を明るく照らすためなんだ、と。

その話を聞いた時俺は決心がついた。アイドルとなり命ある限り輝き続けようと。そしてこいつらの未来を照らしてやろうと。俺にとって名前が未来を照らす星であるように名前にとっての星になろうと思った。

そんな名前に俺が依存し、恋に落ちるなんて簡単なことだった。名前は俺にとって世界の中心で核なのだ。


だが俺の世界はその日を境に崩れた。その日、早乙女学園の合格発表日。


「やったぜ名前!!合格だ!!」


『おめでとう翔ちゃん!!』


その日俺と名前は合格通知を握り締め喜び抱き合った。親も医者ももう反対はしなかった。やっとアイドルになるという夢を真っ直ぐ見つめるとこが出来る。夢への第一歩が踏み出せる。嬉しくて嬉しくてしょうがない。

ふわふわと飛びまわるような気持ちで早乙女学園の入学案内を見つめる。教師は全員現役アイドルなんだ、とかもしかしたら日向龍也に教えてもらえるかもしれないとか、とにかく俺は浮かれていた。だが俺の浮かれた気持ちもある項目を見た瞬間地に堕ちた。


校則:恋愛は絶対禁止。規則違反者は即退学処分とする。


がらがらと音をたてて俺の描いていた未来像が崩れてゆく。俺の未来像には当然のよう名前が隣にいた。だが恋愛禁止ならそれはかなわない。冷静に考えてみればわかることだ。アイドルにとって恋愛はご法度。アイドルにとっての恋人はファンの子でなければならないのだから。


夢か愛かなんて考えるまでもない。ここで愛なんて取ったら今まで応援してくれた名前への裏切りだ。


だから俺は……


「じゃあな名前。絶対ビックになってくるからな!!」


『楽しみにしてるね』


「薫、名前のこと頼んだぞ」


「……うん」


「じゃあな」


泣きたい、醒めたい、嗚呼酔いたい


もう叶わないことだけど。

引き裂かれるような胸の痛みを見て見ぬふりして蓋をした。

end





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