最近、変だ。あの女を見ていると胸の内が焦げる様に熱くなったり、あの女が纏う甘い香りに脳が直接揺さ振られている様に頭がくらくらする。率直に言えば、苦しいのだ。この症状の名前を俺は知っている。だからこそ、どうしていいのか分からない。女はあいつだけではないし、言い寄って来る女など腐る程いる。だがこの気持ちはあいつにのみ感じるものなのだ。

「ジャックー!私ちょっと遊星の所行って来るね!」

ノックもせずに俺の部屋のドアを開けて顔を覗かせる悩みの種。何でこんな無遠慮な女に本気になっているのだ、俺は。

「待て!」

「なーに?」

にこやかに問う女に近付き、腕を引き寄せてドアを閉めた。首を傾げる女は、何も知らない。警戒心ぐらい持ったらどうなんだ。そんな馬鹿を好きになったのは俺なのだが。それでも、苛々した。

「何故分からないんだ…。」

知らず知らず女をドアの際まで追い詰めていて、ああもう止められないのだな、と頭の片隅で思った。勿論俺の頭の大半を占めているのは己の欲だ。欲と理性が脳内で鬩ぎ合う中、そんな焦燥を知らないのだろう女は心配そうに俺の顔を見ている。意図して上目遣いで見ている訳ではないだろうが、それは俺をそそらせるには十分過ぎるもので…。

「ジャック?」

理性が利かなくなって女の体をドアに押し当てた。両腕を頭の横で拘束して、無理矢理に口唇を奪う。女は驚愕した様で、目を見開いてから苦しそうに細め、拘束された腕で抵抗した。目一杯抵抗しているんだろうが、俺からすれば微弱過ぎるものだ。

「なん、で」

涙で揺れる無垢な瞳を目視しているうちに、煮えたぎるような独占欲に支配された俺は、その瞳に映る無垢を塗り潰し、恐怖の色に染めた。何も知らないままで居て欲しかった、なんて言う資格は俺にはないのだろう。誰にも奪わせない。知らない誰かに汚されるぐらいなら俺が奪ってやる。心が軋んだ気がした。



無垢を塗り潰す 100225
title by 白砂に骨
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