「俺が悪かったから機嫌直してよ。」
とあるマンションの一室で、戦いは幕を開けた。切っ掛けは、臨也が私の嗜好品であるアイスを勝手に食べた事から。それから口喧嘩に発展し、遂には臨也と全く口を利かなくなった。…と言うより私が一方的に臨也を無視しているのだが。ソファーに腰を据えてつーんと外方を向いている私の隣に腰を下ろして、必死にご機嫌取りをしようとしている臨也。そろそろ許してあげても良いかなあと思ってはいるが、焦ってる臨也が可愛いからもう少しだけ困らせてみようと思う。
「…こっち向けったら。」
「折原臨也が視界からログアウトしました。」
「…ふうん、へー…そういう態度取るんだ?」
まずいやりすぎた!そう思ったのも束の間、一気に体重を掛けられ、ソファーに押し倒された。何時の間にか両腕は頭の横に確り固定されていて、この先の展開が容易く読め、顔が青ざめる。爽やかな笑みを浮かべてはいるが、ワインレッドの瞳には熱を宿していて、私は今更ながらに後悔した。…今更では遅いのだが。そう、後に悔やむと書いて後悔と読むのだ。
「ごめん臨也ほんとごめんなさい。」
「俺が何回も謝ったのに君は許してくれなかったよね?なのに俺には許せって?それは狡いんじゃないかな。」
一見穏やかな雰囲気を纏っている様だが、私には分かる。この爽やか過ぎて不気味な笑みは、堪忍袋の緒が切れている証拠なのだと。
「だ、だって焦ってる臨也が可愛かったから!」
「…俺で遊んでたんだ?それなら仕方ないよね。」
「何が!?」
「俺も君で遊ぶ事にするよ。」
そう耳元で囁き、私の肩が跳ねた途端に耳に舌を這わせた。耳殻を撫でる舌の熱さに身の内が焦げそうな、それでいてむず痒い様な感覚が襲う。
「う…や、だ臨也…。」
「知らない。」
直接脳に響く様な低音に、身体が強張る。抵抗の為両腕を動かそうとするが、より強く押さえ付けられて無駄に終わった。両足もばたつかせたが、それさえも臨也にとっては些細な抵抗だったらしく、結局無駄に終わる。臨也は耳元でクスリと小さな笑い声を発し、耳の中にまで舌を這わせた。
「ふ…う、は…。」
水音がダイレクトに聞こえて、羞恥に涙が滲んだ。吐息混じりに声が漏れ、その恥ずかしさに歯を食い縛る。
「えっろ。」
「見、んな…。」
耳を弄ぶのを止め、顔を見下ろされる。熱くなった頬と涙目を見られるのが嫌で、顔を逸らした。この行為には、内に燻る熱がこれ以上の事を期待していて、その事実を認めたくないと云う気持ちも含まれている。
「これぐらいで泣かないでよ。お楽しみはこれからなんだから、さ。」
たっぷり啼かせてあげる。悪魔の様な微笑みを見て、抵抗しても無駄だと判断した。せめて痛くしないで欲しいと切実に願ったが、臨也がそんなに甘い性格でない事は把握済みである。これからどんな仕打ちを受けるのか、大体の想像はつくが、自分の身を案じずにはいられなかった。
砂糖菓子に沈む 100327
title by 幸福