私の目には、欠落したそれを得る為に役者になった彼の行動力が、とても羨ましく、とてつもなく眩しく映って仕方がない。変わる為の努力を忘れてしまった私は、ふわふわとした意識で日々を過ごすだけ。幽と過ごす時間だけが私の全てなんだと思うようになって来て、末期症状かな、なんて自嘲の笑みが漏れる。

「…どうかした?」

「何でもないよ。」

無表情で首を傾げる幽の可愛さは国宝級で、胸がきゅんと締め付けられる。私以外の前でこんな仕草をされたら、嫉妬に狂ってしまいそうだ。幽の表情を独り占めしたい。役者なんて辞めてずっと傍に居て欲しい。でも、それは私の我が儘で幽が望んでいる事ではないから、自己中心的な思いは胸中に秘めておく。こうして溜め込む事で、何時かその思いが爆発する事を恐れながら。

「俺は…君が何を思って、何を感じてるのかは分からない。けど、君が悲しそうにしてると俺も悲しい。これだけは…分かるよ。」

いつの間にか、私の表情は曇っていたらしい。心配させてしまった事を悔やむよりも、幽の言葉に気を取られてぽかんと口が半開きになった。心なしか柔らかく見える幽の表情は、矢張り私からしたらキラキラしていて、目が眩む。これが、幽が役者を続けて来た上での変化…。

「私の悲しみが幽の悲しみなら、幽の幸せが私の幸せだよ。」

私が微笑めば、彼は優しい目をする。思えば、ずっと前から変化はあったんだ。努力の結果は確り返って来る。無駄な事なんて一つも無いんだと、幽のお陰で気付かされた。私は応援してあげなきゃいけないよね。晴れ晴れとした心が弾んで、勢い良く幽に抱き付く。多少の動揺が感じ取れたが、幽は優しく抱き留めてくれて、心にじんわりと温もりが染みて行く。彼が私を求めてくれるなら、私はずっと生きていたいと思う。その為なら、どんな努力でも時間を惜しまず喜んでしたい。

「あ、明日早いから今日はそろそろ帰らなきゃ…。」

「そっか。仕事、頑張ってね。次の映画も観に行くから。」

幽の体を解放しそう言えば、彼はそっと私の頭を撫でる。髪がくしゃくしゃになるのを感じたが、その心地好さに身を委ねた。



無口なスパンコール 100316
title by 花洩
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -