彼は一体、その爛々たる眼光を何処に向けているのか。飢えた獣の様な瞳には、何を映しているのか。私には知る由も無い、遠く遠くにある何かを見ていて、其処に私はいない。何時も目で追っているのは私で、彼は私など見向きもしないのだ。彼にとって私とはとてもちっぽけで、気に留める様な存在ではない事も重々承知している。彼は私と云う個を愛しているのではなく、人間全てを愛しているから。その上で、私は彼に好意を抱いている。彼の興味をそそる人間を羨望したり、嫉妬したり…生まれるのは醜い感情ばかりだ。恋がこんなにも心を揺り動かすものだとは、思いもよらなかった。最初は一目惚れで、少しでも距離を近付けたくて必死に彼の情報を調べ、その内彼のパソコンにハッキングしている事がばれて、何故かその腕を買われて助手になる事になった。願ったり叶ったりだと思っていたのに、私の欲求はどんどん増えて行って、今では彼の思惟も何もかも、些細な事でさえ知りたいと思う。

「臨也さん…私、一度あの闇医者に診てもらった方が良いのかも知れません…。」

私の事を気に掛けてもらいたくて出た言葉。臨也さんはタイピングをピタリと止め、パソコンの液晶画面を映していた瞳を私に向けた。

「体調悪いの?」

「いえ…。」

臨也さんは私の煮え切らない返事に眉を寄せる。その目に私の姿が映る。それだけで、心臓が焦げそうになるぐらい熱を持つ。一種の中毒だ。彼がこの世から居なくなれば、私は生きる意味を見出だせなくなるかも知れない。

「臨也さんは…人間を愛してるんですよね?」

「うん。それが?」

「その中に…私は入っていますか?」

「当然だよ。君が人間である限りね。」

シニカルな笑みを湛える臨也さんが、私の目には神々しく映る。臨也さんが神だとしたら、私は間違いなく信仰するだろう。人間と云う幾つもの中に含まれる私は、とてつもなく幸せ者だ。

「…俺さあ、人間としては君を愛してるけど、君の自分を卑下するとこ、嫌いなんだよね。」

「…そうですか。」

臨也さんの呆れ半分、怒り半分な溜め息が空気に融ける。嫌いでも良い。その感情は、少しでも私に関心があるからこそ向けられるものだから。私が一番嫌なのは、無関心。彼は私が思う以上に、私の事を見てくれているんだ…。その事実が泣きたい程、堪らなく嬉しくて、彼を好きになった自分をもっと好きになれそうだと、歪に笑んだ。

「君は俺の助手なんだから、もっと自信持ちなよ。」

「はい!」

脳内で臨也さんの言葉を反復して、十分に噛み締める。励ましてくれたと取っても良いのだろうか。期待してみても良いのだろうか。ああ、取り敢えず恋と云う底無し沼からは抜け出せそうに無い。少なくとも、硝子の様なその瞳に私を映してくれている内は。



きみのひとみのはしっこ 100314
title by 幸福
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -