子供の頃思い描いてた未来ってどんなだったろう。あの頃は今を生きるのに一生懸命で、皆と部活に励む事に夢中だった。何時の間にか高校を卒業してて、いつの間にかデュエルをやらなくなってて、気が付いたら大人になってた。あの頃は夜の繁華街なんて怖くて来れたもんじゃなかったけど、今じゃこの喧騒が嫌な事全部忘れさせてくれる気がする。でも、今夜は何故か幸せだった日々を懐古して、頭から消えてくれない。高校を卒業した後は就職をして、海外へ研修に行ったり色々と忙しく、連絡を取る暇ぐらいはあったが会う時間をつくる事は難しかった。その内連絡も取らなくなって、今ではメールアドレスを変更した時に少しメールする程度になってしまった。忙しさは落ち着いて来ているから、会おうと思えば会う事も出来る。だが、あれからもう二年も経つ。皆が今も交流を続けているのなら、そこに入っても私は浮いた存在になるだろう。空気を壊すのも余所余所しい態度を取られるのも怖い。あくまで想像だが。そんなどうしようもない思考をぐるぐる巡らせていたら、背後から軽く肩を掴まれる。驚いて振り返れば、ずっと恋しくて忘れられなかった人が目の前に居た。

「…十、代?」

「あ、やっぱりお前か!」

久しぶりだな!なんて、あの頃と変わらない無邪気な笑みで、再会の言葉を口に出した男。高校時代から私が想いを寄せていて、喩えるなら太陽みたいな人。太陽みたいと言ってもギラギラとした鋭い光じゃなくて、キラキラとしたほんわかな温かさを持っている。持ち前の明るさで、何時も空気を和ませてくれる様な存在だった。

「二年ぶりだね。」

「そうだな!」

変わらない眩しい笑顔は、あの頃に戻れるかもと期待させて、やっぱり心に空洞を残して。変わらない貴方を置いて私が変わって行く事に、苦しさを感じた。

「また皆で一緒にデュエルしようぜー。」

もういい大人なのに、子供の様に強請る十代は凄く可愛い。他人にもこんな顔を見せるんだろうと思うと、少々苛々してくる。

「私はいいよ。デュエルもう、止めちゃったから。」

「嘘だろ!?お前、あんなにデュエル好きだったのに…。」

十代は驚愕に目を見開いて、確認する様に言葉を紡ぐ。そう、だっけ。デュエルの楽しさなんてもう忘れてしまった。何が楽しかったのか、分からなくなってしまった。こうやって皆薄れて消えて行く。

「じゃあ皆でどっか行くとかさ。」

「いいってば!!」

こんな歳になって喚くなんて、我ながら子供染みているとは思う。好きな人を困らせてどうすると言うのか。歩く速度はそのままで、チラチラとこちらを見ながら通り過ぎて行く人々。十代は俯いた私の左手を引いて、路地裏に入る。昔よりも広くなった背中には、男らしさを感じられた。

「ごめん…。」

「どうしたんだよ?悩みがあんなら言ってみろって!」

昔も、私が何かに悩んでいたりするといち早く気付いてくれた。優しく笑いかけて、今みたいに二人きりの空間をわざわざつくってくれる。私が喋り易い様に配慮して、急かさないで開口するのを待ってくれる。自然と涙が溢れて、ぽたぽたと地面に落ちて行く。思わず繋いだ手に力が籠もる。十代もそれに合わせて強く握り返してくれて、その事が胸を熱くさせた。

「…私、変わっちゃったから…皆に会うのが怖いの。」

その弱音を聞いた十代は、きょとんとした顔で返した。

「お前のどこが変わったんだよ。俺の好きなお前のままだぜ?」

心底分からないと言う風にそう述べられ、開いた口が塞がらない。涙は次第に引いて行く。沈黙が続くと、十代は居心地が悪そうに頭を掻いた。

「な、何か言えよー…。」

「え、あ…好きって…その、どういう好き?」

「…そういう、好きしかないだろ。」

こんなに真っ赤な十代は初めてだ。珍しげに凝視していたら、繋いでいた手をそのままぐいっと引かれ、十代の胸に飛び込む形になった。

「あんま見んなよ…。はずい。」

頭と背中に腕を回されて、顔を上げられない。ああでもこのままで良いかも。だって私の顔もきっと真っ赤だ。鼓動の速度も共有していて、まるで十代を独り占め出来た様な気になる。

「…確かに変わったかもしんねえけど、大人になるってこういう事なんだろうな。」

ちょっと寂しいけどさ。その声色は若干の哀愁を漂わせていた。私は、大人になる事が怖かったのかもしれない。何時迄も子供でいる事は出来ないのに。十代の言葉を聞いて、変わらないでいる事程難しい事はないんじゃないかって思い直した。また、私は変わったのだ。全部私が選んだのにも関わらず、勝手に悲観に暮れて、独りで苛々していたさっきまでの自分とは、また少し違う自分になった。

「ありがとう、十代。」

「どう致しまして。」

頭に回されていた手が離されて、私は十代の顔を見る事が可能になった。悪戯っぽく笑んだその表情は妖艶さを含んでいて、この人も大人になったんだな、と密かに思った。



ミルキーミルキーロマンス 100306
title by 幸福
だあれこれ。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -