一方通行で、決して交わらない愛を、俗に片思いと呼ぶ。何時かはこの状態に飽きると思っていたのに、変わらない。状態も、気持ちも、何一つ。成長していないと言ってしまえばそれまでなのだが、やはり踏み切れない部分があった。伝えてしまえば今迄の関係ではいられなくなるから。関係が進歩するか全てが終わるかのどちらか。女の子なら誰しも思った事がある筈だ。恋をした事がない子は別として。玉砕覚悟、なんて思い切った事は私には出来ない。運が良いか悪いか今日はバレンタインデー。チョコを渡したからイコール告白な訳ではない、と思う。拒絶されたら色々と終わりだけど、そうと決まってはいないのだからここはポジティブで行かなければ。デパートで買って来たチョコはハート型で、これ又ハート型の赤色をした箱に入れられている。真ん中にちょこんと施されたピンクのリボンが可愛らしい。臨也の家に来た時から渡すタイミングを図ってはいるが、それには空気を読むスキルが重要になってくる。…果たしてそんな雰囲気になるのかが極めて曖昧だが。

「何ボケっとしてるんだい?」

「うえ!?あ、いや…ちょっと瞑想を…。」

「…うん、相変わらず君って変だよね。」

刹那、言葉を選ぶ事を覚えようと思った。まるでとても希少価値がある物を見る様な目。大体、変人に変と言われる事自体屈辱的だ。いやこれはお揃いだと喜べば良いの?そうだよねポジティブで行くって決めたんだし!…でも、私はこの会話を交わした時点で判断した。このまま実の無い会話を続けていても、甘い空気になる事は有り得ないのだと。だったら直球で行くしかない。わざとらしい咳をして、問い掛けた。

「そ、そういえば臨也ってバレンタインチョコとか貰ったの?」

取り敢えずこれを聞く事からだろう。まあ恐らく臨也にチョコをあげる人物等いないとは思う。いるとしたらよっぽどの奇人か妹さんか。…あれ、奇人って私も入るんじゃ…。

「…貰ってないけど。」

ああ遂に妹さんにも見捨てられたのか。と言うか天は我に味方した!流石に池袋で恐れられている人間だけあって、チョコを渡す人はいない様だ。もうこの流れはチャンスとしか言い様がない。鞄の中を漁り、買ったチョコを取り出して、不自然にならない様に差し出した。

「ハッピーバレンタイン!」

「え、新手のテロ?」

「ちげえよ買ったやつだよ。」

つい言葉遣いが荒くなってしまったが、あくまで奴が悪い。自分の料理の下手さは自分が一番よく知っている。寧ろ、敢えて作れば良かったと後悔した。臨也はチョコを受け取って、それをまじまじと見つめるが、そこまで警戒しなくても良いと思う。私の心に罅が入りそうだ。不意に臨也がこちらを見た。

「本命?」

「義理です。」

「ふーん…何でハート型なの?」

「それは仕様ですただの仕様です仕様でしかない。」

「どんだけ仕様強調するの。」

クスクスと愉快そうに笑う臨也の顔は、とても整っている。真紅の瞳に見詰められると、私の思考が全部悟られている様な気がして、次の行動を取る為の判断を狂わせる。

「嘘は良くないよね。」

「なに、が。」

「まあ、今はそういう事にしといてあげる。」

ほら、見透かされた。臨也には嘘など通じないんだ。欺こうとした時点で既にこちらの敗北は決まっている。頬に灯る熱を誤魔化す様に目を逸らした。

「お返しは楽しみにしといてくれて良いよ。君には色々と貰ったからね。」

「色々?」

「ホワイトデーのお楽しみ。」

私の疑問は、ウインクと謎の伏線により有耶無耶にされた。



野晒しマイハート 100304
title by 花洩
きっとホワイトデーにフラグ回収します。
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テーマ「人外ファンタジー」
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