明けない夜なんてなくて。望まなくても日は昇って。サンサンと存在を主張する太陽も夜にはその影を隠して。それが何でもない日常で、忌々しい日々だ。あの人が消えたあの日から、視界に映るもの総てが褪せて見える。あの人はアメリカに留学しているのだと明日香は言っていたが、嘘を吐いているのが直ぐに分かった。哀しみに揺れる瞳とぎこちない笑顔。その表情が全てを物語っていて、放心状態に陥り、挙げ句に明日香を責めてしまった。筋違いな私の怒りに反論もせず俯いて黙る明日香はらしくなかったし、今思えば何かを悔いているような様で、瞳は陰っていた。気丈に振る舞っていた彼女に私はなんて仕打ちをしてしまったんだろう。明日香はあの人がどうして行方不明になったのかを知らないのに。私と同じなのに。嘘を吐かれた事にも憤りを感じたが、その嘘は明日香の優しさであり、私を思っての事だったのだ。ただその時は脳内があの人の事で一杯で、間違いを犯してしまった。この件以来、明日香とは会っていない。後悔はしているし、謝罪もしたいとは思っているが、今更過ぎてどんな顔をして会いに行けば良いのか分からない。あれから一週間程経ったが、私は未だに学校に行けずほぼ引き籠もり状態だ。
インターホンの音が静寂な空間に響く。どうせ新聞の勧誘か何かだろうし、出なくても問題はない。そう思っていたのに、扉を開閉する音がした。どうやら鍵を閉め忘れていたらしい。私がいるリビングへと真っ直ぐ近付いて来る気配。誰だろう、人と話したい気分ではないのに。ドアノブがガチャリと動き、リビングに足を踏み入れたその人は、私のよく知る人物だった。

「…亮。」

「何時迄そうしているつもりだ?」

ソファーに蹲って座る私に投げ掛けた言葉。それに秘められた感情は何だろうか。

「亮は…どうして平気なの?」

「吹雪の事か?」

ズキリと痛んだ胸。私の中にはあの人の名が染み込んでいる。苦しい苦しい苦しい。

「…俺と明日香はあいつを捜している。お前の様に塞ぎ込んでいても、吹雪が見付かる訳じゃない。」

お前は逃げているだけで良いのか?全てを見透かされていると知るには十分過ぎる言葉だった。

「うるさい!!帰ってよ!私に構わないで!!」

悔しさの余りに吐き出した言葉は虚実であり、二律背反の束縛は止む事を知らない。いつだって矛盾が付いて回る。傍に居て欲しい、放って置いて欲しい。傍に居てもらう価値もない私。とても弱い私。亮は呆れて帰ってしまうだろう。後悔ばかりだ。

「…お前は、本当にこれで良いと思ってるのか?」

「…分かんない、よ。」

「考える事から逃げるな。一つずつ、ゆっくりで良い。考えろ。必要なら俺や明日香を頼れば良い。」

濁流の様な涙は涙腺を決壊させる。亮の程よく筋肉が付いた腕が、私の体を包む。亮の体にはしっかりとした熱が感じられて、久しぶりに人の温かさに触れた事を実感した。

「まだ…遅くないかな?」

「ああ。明日香もお前を待ってる。」

包まれた腕が解けて、肩を掴まれる。薄く笑んだ亮は吹雪に負けないぐらいに綺麗で、私を魅了した。



二律背反の束縛 100227
title by 亡霊
DAじゃなく寮でもない設定。
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