――月の綺麗な夜
黒田坊は一人縁側に座ってぼんやりと月を眺めていた。
珍しく外には彼以外誰も居らず、聞こえるのは草花が風に揺れる音だけ。

そんな静けさの中、近くでカタンと小さな音がした。
音のした方を見ると、近くの部屋からひょっこり淡島が姿を現した。
彼女はすぐに黒田坊に気付くとスタスタと近寄って行き、黙って彼の横にストンと腰を下ろした。
黒田坊は淡島をチラリと横目で見たが、彼も何も言わず直ぐにまた目を閉じた。


しばらくの間、2人は黙って並んで座っていた。
しかし退屈になったのか、それともなかなか自分をかまってくれない黒田坊に苛ついたのか、淡島はいきなり「うう〜」と呻くと、黒田坊の膝を枕にしてゴロンと横になった。



「………おい。」
そこでやっと黒田坊は口を開いた。

「重いんだが…。」


眉間に皺を寄せる黒田坊に対し淡島は二ヤリと笑った。


「へへ…良い所に枕があったんでな。別に良いだろ……」
ゴチン
「いでっっ!!」

膝の上に置いていた頭は黒田坊に強制的に冷たい床の上に落とされた。



「いってえなぁ!落とすなよ!」

「お前の頭は空っぽのクセに重い…痺れる」

「おぉぉ〜っ!?喧嘩売ってんのかよ…っ」



さらに突っかかってくるかと思いきや、淡島はしゅんと落ち込んだ顔をして身体を起こし、黒田坊に背を向けた。
普段は男だが、夜である今は淡島も女。
今は女性の気持ちとして恋人に甘えたい心理であった。
ただ性格上それを素直に口に出すことは出来ない。

しばらく、不貞腐れて自分から顔を背けたままの淡島を黒田坊は黙って見つめていた。
そして、いきなり淡島を後ろから抱きすくめると、ひょいっと自分の膝の上に乗せた。
淡島は驚いた顔をして黒田坊を見たが、みるみる顔が赤くなっていき、それを隠すようにまた彼から顔を背けた。



「…足痺れるんじゃなかったのかよ…」

「ふふふ…大丈夫だ。淡島は女の子だから軽いんでな…」

そう言って後ろからぎゅっと抱きしめる。



「……いや…今頭のせたらお前重いって…」

「淡島は軽いからな」

「いやいや!どう考えても頭より身体の方が重いに決まってんだろ!つーかお前こうしたっかっただけだろ!このエロ坊主がっ!!」

「ん?淡島は嫌なのか?」


そう言うと、黒田坊は意地悪く笑いながら回していた手を解こうとした。
すると、慌ててその手を掴み元の位置に戻した。



「べッ別に嫌じゃあねーからよ…//このままで良い…」

「ふふふ…了解。」



恋人達の戯れ。
見ていたのは月だけ……



END.


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