「ぎゃあああああああ!!貴様!やめろと言っているだろうがぁぁあっ!!」





基地内に響くギロロの悲痛な叫び声……


只今侵略作戦の兵器の実験中。
もちろん実験台は今叫び声をあげていたギロロである。

今回の作戦は『激痛ツボマッサージで逆に身体を痛くしてやろう作戦』
作戦内容は名前の通りマッサージ機に拘束して激痛ツボマッサージを受けてもらうといったものだ。


その兵器を作った張本人であるクルルが楽しそうに痛がるギロロに声をかける。




「まあまあ、作戦の為なんだからちょっと我慢してくれよ〜せ・ん・ぱ〜い。」




もともとS気質なクルルにとってギロロを苛める時間は楽しみの一つ。
といっても、彼の楽しみはこれだけではない…



クルルはギロロに声を掛けてから、チラリと恋人であるケロロの方を見る。

2人のやり取りを見ているケロロは見るからに苛立っていた。
クルルと目が合うと顔をしかめる。



侵略兵器の実験台にギロロを使い、クルルがちょっかいを出すのはいつもの光景。
だが、ケロロにとっては自分の恋人が他の男に絡んでいる光景を見るのは心中穏やかなものではない。



そんなケロロの不機嫌さを見たクルルはいつもの嫌な笑みを更に深める。

恋人にヤキモチを妬かれるのは愛されている証拠。
そう……もうひとつのクルルの楽しみというのはケロロにヤキモチを妬かせること
そのためにも毎回クルルはわざとギロロにちょっかいを出しているのだ。




「実験終了でーす!ていうか、身体激痛?」



モアの声とともにガチャンと音をたてて拘束が外れ、ギロロがふらふらと装置から離れる。



「先輩、痛くなかったですか〜?ここらへんとか、ホレ」



そう言ってクルルはギロロが装置に散々攻められていた腰をグリグリと力強く押す。


「ぎゃああああああっ!!」

「ク〜クックック〜やっぱ痛かったか〜」

「じゃかましいっ!」




…すると、とうとう痺れを切らしたケロロがクルル達の話を遮るように叫ぶ。



「あーもう!じゃあ実験成功ということで作戦を開始するであります!
……ん〜?あれ?そういえばドロロ呼んでたっけ?」

「ひっ!ひどいよケロロく〜ん。僕ずっとここにいたんだけど…」

「あー、ごみんごみん!お前影薄いから気付かなかったであります」

「ひどいよぉ〜!」







「…………。」




今度は2人のやり取りを見ていたクルルが不機嫌になる。

端から見たらいつもの光景だが、クルルにはそうは見えないらしい。

皆の前でぶつけようのないケロロの怒りは、付き合いが長く、優しいドロロに向けられる。
幼馴染だから出来る甘え
元々ケロロ達の幼なじみという関係を気にしているクルルは、どんな些細なことも余計に深読みをして嫉妬をしてしまうのだ。


そして、ケロロの視線を再び自分に戻す為に余計なことを思いつく。




クルルは苛立ちをなるべく表に出さないように、嫌味な笑みを顔に張り付けてギロロに近付いた。



「おい…ギロロ先ぱ〜い」

「あぁ?何だ?」



警戒心丸出しのギロロの胸倉を掴み自分と背が合うようグイっと引っ張る。




「貴様!また何を……」


チュッ


「……………なっ?!」

「ククーッ!実験台になったお礼だぜ〜。この俺様から頬にキスして貰えたんだ。有り難く思いな。」





これでケロロはまたヤキモチを妬くはず
そう思いニヤニヤしながらケロロの方を見る。



…が、その途端クルルは顔をサ−ッと青くして自分のやりすぎた行為を悔やんだ。

クルルの目線の先にいるケロロは顔は笑っているが、その身体からは怒りのオーラが発せられていた。
いつもからは想像出来ない様な殺気を立たせてクルルに一歩一歩近付いてくる。
さっきまで抱いていたケロロ達に対する嫉妬心は、ケロロに対する恐怖心によってどこかへ追いやられてしまった。




「クルル曹長…?」




ケロロに凍るような目で見つめられた瞬間、クルルの頭の中には『後悔』の2文字しか浮かばない。



コイツ…また無茶なことを言い出すに違いねぇ
自分も実験台になるからキスしろとか
隊員の前でヤるとか…



1人緊張した顔でダラダラと冷や汗を流しケロロの反応を待つクルルだが、ケロロから出たのは意外な言葉で………



「…早速侵略作戦を始めるであります!」



予想に反した言葉をかけられてクルルは一瞬呆然とした。
気付くといつの間にかケロロが纏っていた冷たい雰囲気は消えている。



…今のは気のせいか?



不審に思ったクルルだが、すぐにいつもの性質の悪い笑い声をあげてスイッチに手を伸ばした。




「…ク〜クックック〜!了解だぜ〜ポチっとぉ!」









・・・・・・・・・・・・




「はぁ……」



基地の廊下でクルルがため息を一つ落とす。


今回の作戦も日向夏美によって失敗に終わり、隊員全員で後片付けを済まして来たところである。
その疲れからか、先ほどのケロロとのいざこざも頭から消え、のんびりカレー風呂にでも入ろうかと考える。


ラボに着いて、中に入る。
…が、その途端誰かに手を掴まれドンっと壁に押さえつけられた。



「クッ!!誰だ?!」



自分を押さえつけている人物を見た瞬間クルルはまた自分の顔がサアッと青くなるのを感じた。



「隊長……!」


目の前にはニヤニヤしているケロロ。



「クルルく〜ん。今日はお疲れさまだったね〜」

「…あ、あぁ。隊長の作戦はま・た!失敗だったしなぁ〜」



先ほどのケロロの冷たい目を思い出すが性格上人を苛立たせることしか言えない。
だが、ケロロはそれを気にする様子はなく相変わらずニヤニヤと笑っている。



「ね!疲れたよね?」

「……ックソ!…スルーかよっ!」



成り立たない会話の間、何度もケロロの手から逃れようとするが
軍人として鍛えられたケロロの手は日頃からの彼からは想像できない程強く、クルルの手をガッチリと掴んで離さない。



「そんなクルル君に我輩がマッサージしてあげるでありますよ」

「…は?」

「だから〜マッサージ♪」



呆気にとられ、抵抗が緩んだクルルの手を器用に一つに纏めて頭上で押さえつける。



「なっ?!何しやがる?」



焦るクルルの服の中にケロロの手がスルリと入る。


「ひゃっ!」

「ね?」


ケロロが言うマッサージの意味がわかったクルルの顔がみるみる赤くなっていく。


「いっ…いらねぇよ!」

「ふふふ…問答無用♪」

「クッ………ッ!///」








・・・・・・・・・・・・





薄暗闇の中、ラボにあるクルルのベッドの上に二つの影。

その影の1つであるケロロは、上半身何も纏わない姿でベッドに腰掛け水を飲んでいる。



「…で?どうでありましたか?我輩のマッサージは」



ケロロは水の入ったペットボトルを机の上に置きながら、布団にくるまるクルルに満面の笑みで声をかける。


「…最悪」


散々声をあげたせいで声が少々かれている。




「よく言うよ。あんなに気持ち良さそうにしてたくせにさ〜」

「うっせぇ!//」




クルルの赤い顔を見て満足そうな顔をしていたケロロだが、ふとあることを思い出して更に笑みを深める。



「あーそうそう!」

「?」



そう言うなりケロロは横になっているクルルに覆いかぶさるように顔を近付ける。




「なっ?!」


チュッ


「……っ!//」




軽く触れ合っただけの唇を指で押さえ、真っ赤になりながら照れ隠しにケロロを睨む。




「マッサージの実験台になったお礼っつーことで♪」

「クッ!あんたがやりたかっただけだろ〜が…」

「まぁ、そうだけどねぇ
でも、さっきはよく我慢したと思わない?我輩も兵器の実験台になってクルルにキスを迫ろうかと思ったりしたんだけど…」

「…やっぱりな。」



自分の想像通りのことをしようと思っていたケロロの単純さに呆れるとともに、ぞっとした。




「あそこで苛めるよりも後でたっぷりお仕置きした方が良いと思ってね。」

「………隊長……あんたやっぱりバカなんだな……」

「うん、クルルバカなんであります」





そう言って幸せそうに笑うケロロの顔を見て、俺も隊長バカだっつーの、と心の中で呟き、また照れ隠しに小さな舌打ちをするのだった。





END.


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