目を開けると、そこには天使がいました。
太陽の光を浴びてキラキラと光る金色の髪
伏せられた長い睫毛の下にある綺麗な紅い目
白衣を纏った細い身体
黄色いワイシャツから覗く雪のような白い肌
一目惚れだった。
こんなきれいな人がいるなんて、とただただ見とれてしまった。
窓の傍で柔らかな日の光を浴びながら手元の書類を読んでいるどこか儚げな美しい人。
「…綺麗であります…」
つい思ったことをポロリと口に出してしまう。
すると、紅い目が此方に向いた。
「あ…」
ケロロがそれにギクリと身を怯ませるとその人はニヤリと笑った。
「ククーッ!目が覚めたかい?」
「……え…と、……って、あれ?」
声をかけられ、初めて気が付く。……此処はどこ?そして、この綺麗な人は誰?
キョロキョロと辺りを見渡し出したケロロを見て、その綺麗な人は説明してくれた。
「頭も打ったか?此処は病院だ。アンタ車に跳ねられて此処に運び込まれて来たんだが…覚えてねーのか?」
……そうだった。
昨日は週末ということで、仕事帰りに同僚のギロロと2人で飲みに行った。
店を出たときには、2人ともべろべろに酔っ払った状態で、ふらふらと歩いて帰ろうとした時に曲がり角で車に……
「…って!ギロロは…っ!?」
そこまで思い出した途端顔が真っ青になる。あの時一緒に居た同僚は無事なのだろうか?
「赤髪のお連れさんのことか?大丈夫、心配いらねぇよ。タフな野郎だぜぇ 〜アンタを庇っておいて自分はピンピンしてるんだからなぁ」
「無事でありましたか…」
同僚の無事にホッと胸を撫で下ろした。
そして、安心したと同時に苦笑する。
あの赤達磨は相変わらずの馬鹿だ。自分の身より他人の安全を優先する。そして、今回のように無茶な行動をとる。
自分の身をもっと大切にしろと繰り返し言っているのだが、なかなか言うことを聞かない。
だが今回は助けて貰ったようだし…奴も無傷の様だから、いつもの小言は少しにしておいて、お礼に後輩の夏実殿との仲を取り持ってやろうかね…
ぼんやり同僚のことを考え、それでは…と視線を目の前の男性に戻す。
「…今のはなしを聞いたところだと…貴方は先生でありますよね?」
「……ぷっ、アンタ変なしゃべり方だなぁ」
そう言って笑う表情にドキッとする。
………美人の笑顔はやばい。
「よっ…よく言われるであります」
「ふ〜ん…あぁ、俺はアンタの主治医 のクルルだ。アンタの身体の方は右足の骨がポッキリいっちまっててよぉ…」
ホレっと捲られたシーツの下の自分の足を見て、やっと自分の状況に気付く。足は包帯でグルグルと巻かれて固定されており、確かに動かすと痛みが走る。
「まぁ全治一ヶ月って所だな。」
「一ヶ月…でありますか…」
「ま、そういうことだ。とりあえず今日1日はそこで安静にしておきな。
どこかにぶつけると痛いぜ?こんな風にーー」
そう言ってその包帯を巻いた足を先生は肘でぐりっと押した。
……押した?
「ーーって!いっっってぇええええ!!!?」
「クックーッ!」
「なっなっ、なにするでありますかぁっ!?」
涙目で訴えるとクルル先生は意地の悪い顔でニタァと笑う。
「だから事前に教えてやったんだよ。動き回って何処かにぶつけでもしたらどんだけ痛いかってのをよ〜」
ク〜〜ックックック〜〜!
と、声高く笑うクルル先生を見て思った。
この人めちゃくちゃ性格悪い……!
思う存分笑ったクルル先生は
「ま、アンタはもう少しそこで休んでな。」
と、ケロロに声をかけると、また手元の書類を読み出した。
「……………」
「………………」
「え、と……クルル先生?」
「………んあー?」
「こんな所でのんびりしていても大丈夫なんでありますか?」
「会議があるんだが、めんどくせーからよぉ、少しここででサボろうと思ってな」
「良いんでありますか?」
目を見開き聞き返すと、ニヤリと笑わった。
「だってアンタ目ぇ覚まさなかったし」
そう言って、また書類に視線を落とした。どうやら、しばらくここで時間を潰すつもりらしい。
それならばと、改めて先生を観察することにした。
やはり改めて見てもクルル先生は綺麗だ。
目覚めた時は何も考えずにただ綺麗だと思っていたが、よく考えると自分は男のクルル先生に見惚れちゃってたんだよな…
書類を見ているクルル先生の髪がさらりと揺れる。
太陽の光を浴びる先生の黄色い髪はきらきらしてる。
気付くと無意識の内に手を伸ばし、クルル先生の髪に触れていた。
触るとまるで糸のようにさらさらこぼれるような綺麗な髪だ。
突然触られたクルル先生はパッと顔を上げ少し驚いた顔をした。
何だか困惑した顔をしてこちらを見ていたが、特に嫌そうな様子は見られなかったので構わず髪をすく。
「…先生、綺麗な髪しているでありますなぁ」
「……あんたも変わった色してるな」
1人何か悩んでいた様子のクルル先生だったが自己簡潔したのか、同じ様に手を伸ばし、ケロロの髪に触れる。
「緑色なんてなかなか見ないでしょ?
よく変な目で見られるんでありますよー」
ケロロがにこにこと笑いかけると、クルルはぼんやり呟く。
「温けぇ色だな…結構この髪好きだぜ〜?」
「………っ、え」
今までそんなことを言われたことのなかったケロロは言葉に詰まった。
何だかこっ恥ずかしくなって髪をすく手を下ろすと、ガラッと病室の扉が開き1人の白衣を着た若い男性が入ってきた。その男性はクルル先生を見ると一瞬ホッとした顔をしたが、すぐに怒った顔になる。
「あ!見つけましたよ!クルル先生!」
「チッ見付かったか」
「見付かったか、じゃありませんよ!行きますよ会議!」
「仕方ね〜な…じゃ、また診察に来るからよ」
「……っあ、はい!であります…」
その若い先生に急かされるように連れていかれた先生の姿が見えなくなってからも、先生が出ていった扉をぼんやり見つめていた。
それからというもの、気付けばクルル先生のことを考えていた。
続く…?