今日も地球は平和
ペコポン侵略を目的としているはずのケロロ小隊の隊長のケロロは侵略作戦を進めるでもなく可愛い部下達とじゃれあっている。
……いや訂正しよう、
部下とじゃれあっているのではない、自分自身をめぐる争奪戦を部下二人に繰り広げられていた。
「うらぁーっ!離せコラァァ!!軍曹さんは僕のモノですぅ!」
「嫌です!おじ様はモアのモノです!ていうかー相思相愛?」
タママがケロロの左手を、モアがケロロの右手を掴み引っ張り合っている。当然左右両方から腕を引っ張られているケロロは痛みに悲鳴をあげる。
「ゲロォーッ!わっ分かったから離してー!!」
痛みに目に涙を浮かべて叫ぶケロロの声にはっ、としてケロロの手を掴んでいた2人の力が少し緩む。
その隙にケロロはスルリと2人の手から抜け出してクルルの方へと逃げて行った。
「あああ……!軍曹さん!」
「おじさま……!」
二人の悲しそうな声を背に、そのままクルルの横に避難した。
二人に慕われることは素直に嬉しい。だが、あのように取り合いをされるのは心身共につらいので勘弁してほしい。
二人から避難してやっと落ち着いたケロロはクルルの手元を覗いて見た。
今クルルはケロロの壊れたパソコンを直してくれている最中だ。クルルの顔に目線を移し、その綺麗な顔を見つめてみる。
しかし、クルルはケロロの視線を無視したまま作業を続ける。その表情はどこか苛ついていた。
その表情に機嫌の悪さを感じながらもケロロはクルルに声をかけてみる。
「クルル〜直りそう?」
「あぁ〜?…アンタ達がもっと静かにしてくれていたら俺様も作業にもっと集中出来て早く直せると思うぜ〜?」
返ってきたのはヒヤリとした不機嫌そうな声とケロロ達への苦情。そして、相変わらずクルルはケロロの方を見ようともしない。クルルの冷たい態度や言葉はいつものことだが、それはいつもよりも更に冷たく感じられる。どうやら、その機嫌の悪さは自分達の騒がしさのせいらしい。
「そ、それは申し訳なかったであります…」
「だいたいアンタも手伝おうとか思わね〜のかよ」
「あ、あぁ…じゃあ手伝お…「…別にいらねー」
「って!えええええ!?」
「隊長が手伝ったら逆に足手まといだしよぉ」
「ちょいまちー!自分が手伝えっつったんでショー!?」
「ククーッ!そうだっけ?」
そう言って意地悪く笑うクルルの言葉は刺々しいものではあるが、先程の冷たい雰囲気が少しずつ無くなっていくのを感じた。直接文句を言うことで、少し気持ちがスッキリしたのかとケロロは少しほっとした。
「ね、クルル?騒いでて申し訳なかったであります。何か我輩にも手伝わせて?」
申し訳なさそうに眉を下げてお願いするケロロの顔をクルルはじっと見つめた。そして、にやりと笑うと手元の紙に何やら書き込んで、それをぴらりとケロロに突き出す。「それじゃあ、この機材を俺のラボから取ってきな。アンタでもそれくらいのおつかいなら出来んだろ?」
「……! りょーかいであります!」
クルルにいつもの調子が戻ったことに安堵して、急いで立ち上がり、ラボへと駆けて行こうとした……
「うっっゲロ!!?」
…が、後ろから勢いよくタママに抱きつかれたことにより、それは叶わなかった。
「軍曹さぁん!僕と遊んで下さいよ」
「ゲロぉ!タママ重い!我輩これからおつかいなんでありますよー!」
「おつかいですか?モアもご一緒します〜♪」
モアも混ざりまた3人がじゃれ合うのを見たクルルの眉間の皺がまた深くなる。
それに気が付いたタママが茶化すように言う。
「もぉークルルさん、ヤキモチですかぁ?」
「あー?何ワケわかんねぇこと言ってやがる?」
「もしかして!モアやタママさんにおじ様を取られてヤキモチをやいていますか?ていうかー羨望嫉妬?」
二人の冗談にケロロも乗っかる。
「え?そうなの?!我輩ってばクルルに愛されてるのね!」
それが冗談だと分かっていた。ケロロも、クルルも。
クルルはその冗談を鼻で笑い飛ばそうと思っていた。
だが、唇は動かず言葉は出てこない。
クルルは自分の顔にじわじわと熱が上がっていくのを感じた。
「…………クッ?!//」
それを見て全員呆気に取られた。
「あ……えっと……?我輩、冗談で言ったんだけど…クルル…?」
つられて顔を赤くしたケロロが恐る恐る声をかける。すると、ハッとしたクルルは赤くなった顔を隠すように片手で抑えて俯く。
「……っ!そんなこたー分かってるっつーの…!っ、訳わかんね」
そう焦ったように呟くとパッと立ち上がり直しかけのパソコンもそのままに逃げるように部屋から立ち去って行った。
残された3人はただただ呆然としていた。
「……クルルさん、どうしたんですかね?」
「さぁ………」
クルルの言動に戸惑うタママとモア
自分の言動に顔を真っ赤にしながら何故あのような反応を取ってしまったのか、自分の気持ちに気付けなくて頭にハテナマークを飛ばすクルル
そして、クルルの言動に可愛かったなと思ってしまう自分に首を傾げるケロロ
ケロロとクルルが自分の気持ちに気付くのはまだ先の話のようだった
END.