「……ん…ぅっ」
チュッ

「……あ……っ…」




貪るように深く交わっていた唇が離れると、クルルは思わず少し寂しそうな表情を見せた。
それをケロロがニヤリと笑うと、クルルはすぐにその寂しそうな表情を隠して不機嫌そうにフンッと鼻を鳴らす。
彼なりの照れ隠しだ。




「…もっとして欲しかったでありますか?」

ケロロが口許をにやつかせながら聞くと「うるせぇ」と睨まれる。



「チッ…そこらかしこでキスなんざして来るんじゃねぇよ…」




クルルが文句を言うのも仕方がない。
ここは基地の廊下。いわば今の恋人同士の口付けを、誰に目撃されていても可笑しくない場所である。

そのような場所で、ケロロは人目なんてお構い無しと言ったように話をしている最中のクルルをいきなり押さえ込みキスをした。
誰も居なかかった為良かったものの、関係を周りに隠しているクルルはいつ人が通るかとひやひやした。



そしてケロロは何事もなかったかのようにけろりとした顔で話を戻す。




「じゃあクルル、この作戦の兵器のことよろしく頼むでありますよ?」

「…少しは周りに注意しろよ、隊長……」


ハァ…と深いため息をつくクルルにケロロはパチンとウィンクする。



「ふふふ…今後気を付けるでありますよー。クルルが我が輩を煽らなければね〜?」

「は?俺がいつアンタを煽った?」

「んー?無意識にやってるんでありますか?話しながらキスして欲しそうな顔で我が輩のことを見てたでありましょう?」

「………っ!んなことしてねぇ!」



思い当たる節があったのか、クルルは顔を真っ赤にして否定する。



「ふ〜ん?」

「ッチ…その計画の兵器作れば良いんだろ?俺はラボに戻るぜ」

「うん。よろしく頼むであります!」








顔を赤らめぶつぶつ文句を言いながらラボへ帰っていくクルルを、ケロロは満足そうに見送った。


「は〜。クルルったら顔赤くしちゃって…可愛い奴でありますなぁ」



キスをする時のクルルは大人しい。
いつもは反抗的な態度を取るくせに、キスをしようと顔を近付けると、顔を赤らめギュッと目を瞑り大人しく唇を重ねられるのを待つ。

日頃の彼からはとても考えられない姿である。



「これも我が輩の大人なキスのおかげ?なんちってーっ!」

ケロロは1人嬉しそうにゲーロゲロと笑った。
……すると、



「なんだガラ?今のキスは」


「ゲロォッ!?」



背後からかけられた小馬鹿にしたような声。
その場には自分の他に誰もいないと思っていたケロロは、いきなり自分にかけられた声に飛び上がった。




そ〜っと後を振り返り、予想外の相手に目を見開く。



「でぇ!?ヴァ、ヴァイパー!?どこから入ってきたんでありますかっ!?」



そこにはペコポン人化した宿敵ヴァイパーがケロロを馬鹿にしたような目で見ながら立っていた。
彼はさらりと目にかかる黒髪を鬱陶しそうに払いのけながら笑う。


「ふん。俺様にかかればケロン人の基地など簡単に入れるガラ。それに、お前を喰うためならどんなことでもできるガラ」

「たっく…お前もしつこい奴でありますな…」


しつこく自分を狙ってくる相手にケロロは呆れ、ヤレヤレと首をふる。




「ところで、さっきのキスは何だガラ?ガキレベルだな。」

「なっ!失礼な!我輩のチッスは凄いんでありますよ?官能的な大人のキスであります!」

「ふーん…」



明らかにバカにしたような笑みを浮かべるヴァイパーを悔しそうに睨むが、それをもヴァイパーは鼻で笑った。


「フン。口で聞いても分かる訳ないガラ。」

「ムキーッ」

「ふっ…」


今まで見下すような視線を送っていた目がスッと細くなる。

ケロロはその視線に背筋がゾクッと寒くなるのを感じた。


……みっ…身の危険を感じるであります…


ケロロがそう感じた瞬間にはヴァイパーは目の前に来ていた。



「あ…えっと」


焦りだしたケロロを見てヴァイパーはニヤリと笑いクイッとケロロの顎を持ち上げる。
その目はすでに獲物を狙う目に変わっている。


「俺様が教えてやろうか?」


その言葉に頭をブンブンと振って拒絶の意を示す。


「イエ、ケッコウデス」

「遠慮しなくても良いガラ?」


………やっ…ヤヴァイ…











「いい加減俺様のものになったらどうだガラ?」

「わっ我が輩、タチでありますから!」


わたわたと慌てるケロロにヴァイパーはニタリと笑みを見せる。


「ふん。そんなもの俺様がお前を下に組み敷いて変えてやる」

「いいっ!いらないから!取り敢えず離れてほしいであります!」


ケロロが懸命にヴァイパーの胸を押すが、その手を邪魔だと言うように頭上に纏められる。


「ちょっ!ヴァイパー…ッ」


最早ケロロとヴァイパーの顔の距離は0に近い。
今にも唇が触れそうな距離。
ケロロは懸命に抵抗しようとするが、それも叶わない。



きっキスされる……っ




ケロロは覚悟して目をギュッと閉じた。


……が、唇に何かが触れる感触は一向にない。
代わりに頭にふわりと置かれた大きな手の感触…



「……ま、考えとけ」


ケロロがそろりと目を開けると、ヴァイパーはふっと笑いそのまま頭を何度か撫でるとケロロから離れた。


「………え?」


呆気にとられてぽかんとするケロロをヴァイパーはまた鼻で笑う。


「何だガラその顔は?キスして欲しかったのか?」

「いや……本当にキスされると思ったから……なんで?」




「嫌がる奴に無理矢理するより求められる方が燃えるんだガラ」、とニヤリと笑いながら答えると「じゃあな」とそのまま背を向け帰っていった。





ヴァイパーの姿が見えなくなった途端、ケロロはふっと身体の力が抜けへなへなとその場に座り込んだ。


「あっぶな……。」


自分の唇を指でなぞりながら深い安堵のため息をついた。
先程この唇に恋人以外のものが触れそうになっていたと考えると身震いする。


「…にしても、クルルがいる限り他の奴に振り向くことなんてあり得ないのにねぇ」


1人ぽつりと呟く。
自分の頭の中はクルルでいっぱいなのだ。
ヴァイパーが(不本意ながら)自分をどうこうしようと思っていても、それに応えるつもりはない。


「…ていうか、きもちわるっ」


自分とヴァイパーとの姿を想像して寒気がし、自分の腕を擦っているとバタバタと慌ただしい足音が近づいてくるのが聞こえた。



「?」


足音がする方へ目を向けると、凄い剣幕で駆け寄ってくるクルルの姿があった。


「……あー…見られてたでありますか。」


ケロロはそのままクルルが傍に来るのを待った。










「…たい……ちょ…」


クルルはケロロの目の前まで来ると肩を上下させながら、息を整える。


「クルル…?」


その声に反応してクルルの顔が上がる。
その顔はやはり険しい。


「…えと、見てた?」

「……あぁ」



ケロロがびくびくしながら顔色を見ていると、ギラリと睨まれる。


「………う゛っ」

「たいちょー…浮気はいけねぇなぁ?」

「浮気…したつもりはないんでありますが」



「………俺以外の奴のことなんざ考えられなくしてやる」



そう言うとケロロの胸ぐらを掴み自分の方へ引き寄せ唇を重ねた。

「んっ……」



普段はケロロからするキス
それが今はクルルから唇を重ねて来ている。
逆にこれってご褒美じゃ…とか考える。
それに、いつも受け身であるクルルのキスはあまり慣れていない為かどこかもどかしい。



必死なのがかわいいでありますな……



「んっ、………」


…しばらく身を委ねようかと思っていたが、クルルのあまりの可愛い行動にケロロも我慢が出来そうにない。

自分の口内に入ってくる舌にスルリと自らの舌を絡める。



「ふっ!?」


それにクルルは驚いて目を見開く。
しかしクルルも負けずと対抗する。



「んっ、うっ、ふはっ……はぁ」



唇が離れた時には、目はとろんとしており乱れた息をはぁはぁと整える。


「ふふ…ヤキモチ?」

「……………」


クルルはそれには答えず口元を袖でクッと拭う。


「…アンタ、あいつにキスされるの受け入れようとしてたろ…」


「まぁ…ね」


つい先程のことを思い出し、少しう゛っと気分が悪くなる。


「あれはね…我が輩の力が弱くて仕方なく……もしキスされていたとしてもヴァイパーからだなんてノーカンでありますよー」


にっこり笑うがフンッと鼻を鳴らして此方を見ようとはしない。
なかなか機嫌が直らない恋人に少し困ったように笑って耳元で囁く。

「我が輩がキスをしたいと思うのはクルルだけでありますよ?」


それにカアッと顔を真っ赤にさせ、ケロロを睨む。

「〜〜っ、なら他のヤツに容易く触らせるんじゃねぇ〜よ!」


「うん。」




顔を赤くしながらぶつぶつ言う可愛い恋人を見てほっとしながら、内心ため息をつく。




「今度ヴァイパーに絡まれた時逃げれるよう、筋トレでもするでありますかな…」




END.


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