気に喰わない奴の段(立花)

 私よりも頭一つ小さな同級生の一人に、立花仙蔵と言う少年がいる。
 初めて見たときは、なんと可愛らしい少女だろうと思ってしまったほどに美しいが、彼は間違いなく私と違い、列記とした男である。
 艶やかな黒髪は、思わず触りたくなるほどのサラストで、それは私がどんなに渇望しても手に入らないものだった。
「鬼桜丸!」
 良く通る、声まで美しい彼は、私の名を呼びながら教室に飛び込んできた。
 私は、授業前の予習にと読んでいた忍たまの友から顔を上げた。
「何だ?どうした?」
「お前の同室の奴はなんなんだ!」
 眉間に皺を寄せながら、見目の割には男らしく、どかりと私の横に座った仙蔵に私は首を傾げた。
「片桐がどうかしたのか?」
「同じ一年生でありながら、委員会をサボり、先輩方に迷惑を掛けるなんて何を考えているんだあいつは!……挙句サボった理由が忘れてた等と……やはりは組は馬鹿の集まりなんだっ」
 ぎりりと仙蔵は拳を強く握りしめる。
 その後ろでは、仙蔵と一緒に教室に来たのであろう文次郎が、呆れ気味に仙蔵の背を見ながら仙蔵の隣に座った。
 恐らく朝からではなく昨日からこの調子なのだろう。
 美人が怒ると迫力があるなと思いながら、私は苦笑した。
「別に片桐は委員会を忘れていたわけじゃないと思うぞ?」
「は?」
「委員会に参加しなかったことに違いはないだろうが、昨日は確か学園長先生に頼まれてお使いに出てたはずだろう?」
 そう言うと仙蔵は眉間に皺を寄せた。
「聞いてない」
「どうせ片桐の事だから「忘れてた」の一言しか言わなかったんだろう?」
「ああ。本当にその一言だけな」
 不機嫌そうな仙蔵はまた思い出したのだろう、眉間の皺を深くした。
「片桐はちょっと面倒くさがりと言うか、些末な事に興味がないと言うか……」
「委員会が些末なことだと!?」
「私たちにとってそうでなくとも片桐にはそうなんだろう。感じ方は人それぞれだろう?」
「鬼桜丸の言う事は一理あるが委員会が些末なことってどうなんだ?」
「部屋でもそうだからなあ……私も些末な事の一つと言うか……」
「鬼桜丸が些末な事だと!?あいつは馬鹿なんじゃないか!?」
「そうかな?片桐は大人だと思うよ」
「あれでか?」
 不審げな顔の仙蔵にくつりと笑った。
「確かに物臭に見えるが、几帳面な性格をしてると思うよ。部屋の片づけは良くしてくれるし、色々教えてくれるよ」
「色々?」
「各地の話とか、道具の手入れだとか。旅芸人を装った忍者の家系の生まれらしくてな」
「ほう……それは面白そうじゃねえか」
「忍者の家系の癖に、は組に所属してるのだから高が知れてる。鬼桜丸の方がずっと努力しているし、結果を出しているだろう?」
「ありがとう」
 でも私のそれは、入学する前にクラマイタケの忍に事前に色々と教わっていたからだ。
 一年生の、それも最初の時期の内容なんて大したものはなくて、知識を詰め込んでおけばどうにかなるような段階だ。
 長い間引き籠りがちな生活をしていた私に、体力があるはずもなく必死に体力作りをしている最中だ。
 それも空回りな気がしなくもないのだけど、しないよりは絶対にマシなはずだ。
「私の努力は人の目に見えるものだ。だけど片桐はその努力をすでに結果として持っているものがある」
「?」
「碁だ。彼はとても強い」
「……負けたのか?」
「ああ。途中からは完全に指導碁だったな」
 そう言うと仙蔵は少し考える様に腕を組んで俯いた。
「片桐は忍たまの友を丸暗記していると聞いたが、本当か?」
「らしいな。私もその話は詳しく知らないが」
「……そうか」
 仙蔵はすいっと目を逸らすと、何事か考える様に視線を俯けた。
 なんとなく、私よりも仙蔵の方が片桐を理解できそうだななんて思いながら、私は微笑ましく仙蔵の考える様子を見守ることにした。


⇒あとがき
 鬼桜丸視点の仙蔵&夢主は、女の子の方が精神的に早熟な所があるのでお姉さんな気分で二人を見守って欲しかったと言う私の希望です。
20110122 初稿
20221014 修正
    
res

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