先生の気持ちの段(厚木)


 かつての教え子が死んだ。

 教え子と言っても、直接教えたことは、彼が上級生になってから数度程度ではあったが。
 そんな話は忍者の教師と言う事で、実際よくあることではあるのだが、問題は今現在在学生である生徒がその子を殺したと言う事だろう。
「虚しい世の中だ」
 まったくと呟く声は雨音にかき消され、水に溶けながら地面に沁み込んでいく血に小さく溜息を吐く。
 美濃吉武と言う生徒は優秀な成績で卒業していった生徒だ。
 不運と言われる保健委員を、入学当初から卒業する最後まで勤め上げ、他者には厳しい男ではあったが後輩には良く慕われていた生徒だ。
 同じ学年の富松蔵之介と楠原槙之助の二人とも仲が良く、多少影があったものの彼らと共に居る時は、明るい表情で過ごしていた印象がある。

 そんな彼が身の内に毒を抱えていることを、教員はもちろん知っているが、生徒はあまり知らない話だ。
 例えば現保健委員長の葦原荘助のように、同じ保健委員であった者は、治療の関係上知ってはいたが、やはりその理由は知らなかった。
 生まれ故郷の慣習で、と美濃は言っていたが、生徒たちには血筋でと語った。
 忍の里の闇などまだ知らない方がいいと言うように気を回す優しい男でもあった美濃。
 彼の遺体は火葬をし、灰を壷に納めてから埋葬しなくてはいけない。
 地面に沁み込んでしまった血は、この雨がある程度薄めてくれるだろうが、土にどのような影響を与えるかはわからない。
 そしてこの雨の所為ですぐに火葬できないこの遺体は、一先ず学園裏にある洞窟に隠し置くことになるだろう。
「すまんな、美濃」
 お前の死を生徒たちに明かすわけにはいかないんだ。
 私は美濃の顔を頭巾でぐるぐると巻き、その遺体を肩に背負い、学園裏にある洞窟へと向けて走り出した。

 出来る事ならば、このような事が再び起きない世に、早くなってほしい。
 そう切に願いながら。



⇒あとがき
 厚木先生だけじゃなくて、忍術学園の先生たちはどこか優しいから、きっと皆こんな風に思う事ってあると思う。
 そう思って、ちょっと短いけど書いてみました。
20101221 初稿
20221009 修正
    
res

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