君の第一印象の段(黒ノ江)

 忍術学園に入学した時、私はすでに同室となる少年について、出雲一帯を治める尼子氏に仕える忍集団・鉢屋衆の頭領から話を聞いていた。
 小柄な体格で、言葉少なで物静か。記憶力に優れ、同年代の忍を目指すものに比べれば、知に置いては突出し、冷静さにも欠くことがない。
 欠くことがあるとすれば、喜怒哀楽と言う一般的な感情ではあるけれど、それが表に出ないだけで小さな起伏はあるらしい。
 良い人材であり、視点が男らしくないから、同室に向くだろうと言われていた。その意味は良くわからなかったが、
 彼は鉢屋殿から聞いていた以上に小さな少年だった。
「……片桐三喜之助」
 小さく呟かれた名前に、それが少年の名なのだと思い出して私は慌てて口を開いた。
「私は黒ノ江鬼桜丸と言う。これから一年よろしく頼む」
「ん」
 こくりと頷いた少年の頭の位置は私よりも頭二つほどは低い場所にあった。
 同年代の他の子に比べても小さい。縦も横も小さな彼は、目だけは大きく丸い。
 ぱちりと瞬きする大きな瞳の上には、小さくちょんと申し訳程度に残された眉。色の白い肌は決して青白いわけではなく、一応健康的な色をしている。
 茶色がかったふわふわした髪は触ると気持ちよさそうだなとみていると、大きな目が私を見上げてきた。
「……何?」
「あ、いや……なんでもない」
 今の私は男として忍術学園に居るのだ。
 あまり髪に興味のある男児など居ないだろうと、感じた言葉を飲み込んだ。
「そう」
 そっけない返事をした後、片桐は自分の忍び道具を取り出して手入れを始めた。
 作業する手元を覗き込めば、それが新品の物ではないことがすぐにわかった。
 きっと実家から持ち込んだものなのだろうそれは、良く手入れされているのだろうがわかり、同時に年季を感じた。
 道具を大事にする奴なんだなと感心しながら、私は彼に声を掛けてみた。
「それは片桐の私物か?」
「そう」
「慣れているんだな」
「それなりに」
 どうやら本当に口数が少ないらしい片桐は黙々と手を動かす。
 文句は言われなかったのでそのままじっと作業を見ていると、再び片桐は大きな目を私に向けた。
「あ、邪魔だったか?」
「……別に」
 視線を落とした片桐は再び苦無を研ぎ始める。
 しゃ、しゃと鉄を研磨する音がどこか心地よい。
「碁、出来る?」
「え?」
「囲碁」
「ああ。まあ、人並みには出来るよ」
「相手してくれるなら教えてあげる」
 しゃ、しゃと単調な音が静かに部屋に響く。
 何をだろうと一瞬首を傾げたが、片桐は自分の道具の手入れをしているのだ。
 じっと作業を見つめ、手入れの仕方を覚えられたら、と思っていた私の意図はどうやら気付かれたらしい。
 なんだか恥ずかしかったけど、私は素直に真新しい自分の道具を取り出した。
「ありがとう」
「……別に」

 口数が少なくて、能面な彼は意外に面倒見がいいらしい。
 多少面倒くさがりでもあるようだけど、彼になら明かしてもいいかもしれないと確かに思った。
 流石、鉢屋殿は見事な慧眼の持ち主だと感心したが、その尊敬も、しばらくの後に片桐の口から語られた姿に、所詮は見せかけだと知るのだった。
 確かに実力はあるけどあの性格は……なあ?



⇒あとがき
 鬼桜丸と夢主のファーストコンタクト☆
 本編に織り交ぜようと思ってた没メモからネタをサルベージしました。
 三郎父が話題で微妙にでしゃばったのは気のせい気のせい……
20101220 初稿
20221009 修正
    
res

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