第壱話-5

「いやぁ、一年生は可愛いね」
 午前の座学に遅れて現れた、同じは組である善法寺伊作は満面の笑みでそう言った。
 遅れた理由がろ組の馬鹿・七松小平太が掘ったと言う塹壕に落ちたからだと言うのは、遅れてすぐに先生に説明をしていたから知っている。
 だけど休み時間に入るなりどうすればその台詞につながるのか良くわからない。
 とりあえず伊作が不運委員会こと保健委員会に所属しているだけあるのは良くわかるのだけど。
「なんだ伊作、一年に会ってきたのか?」
 呆れたようにそう言ったのは、伊作同様私と同じは組の食満留三郎。ちなみに彼は用具委員に所属している。
 伊作とは同室だけど、今日は朝から委員会の呼び出しで伊作を一人にしていたため、授業に遅刻した伊作を心配していた。
「留三郎、実はね……僕を見つけてくれたのが一年生なんだ」
「一年生に発見されるなんて情けない奴だな……」
「うん、それは自分でも思った……でも本当に可愛かったんだ!」
「伊作の不運は今に始まったことじゃないけど、一年生そんなに可愛かったのか?」
「狐のお面がね」
「狐の、お面?」
 留三郎は首を傾げたけど、私の脳裏には昨日お見かけした三郎様の姿が浮かんだ。
 出雲に居た頃に使っていらっしゃった面ではなく、私が夏祭りで三郎様にと購入した狐の面。大事にしてくださっているのだろうことは昨日見ただけでも良くわかった。
 利発で愛らしい三郎様のお世話が出来ないのは残念だけど、代わりに二月に一度だけど、鉢屋の家の者を通じて手紙をお渡ししていた。
 丁寧に返してくださるお返事に一生懸命さが伝わって来て、ますます夢を壊せないと私はくのいち教室の制服まで常備している。
「ねえ、三喜之助も気にならないかい?」
「昨日見た」
「なーんだ。今日こそは三喜之助の興味引くものを見つけられたかなと思ったのに」
「……何故?」
「だって三喜之助の表情って変わらないから、笑った顔とか驚いた顔とか色々見たいなーなんて」
 えへへと笑う伊作に私は目を瞬かせた。
「まあ確かにいつもベッタリな鬼桜丸相手でも、その表情一切変えないからな……お前、何になら興味があるんだ?」
「さあ」
「……即答でそれかよ」
 呆れたように言う留三郎は、なんかないかなーと考えを巡らせ始めた。
 この二人は何がしたいのか、時々よくわからないと私は窓の外へと視線を向けた。


  *    *    *


 一年は組の教室の前から二番目の机の、一番窓際の席が私の定位置だった。
「片桐くん」
 その隣に座る善法寺伊作が自ら声を掛けてきたのは入学から一週間目の事。
 今は委員会決めの真っ最中ということで、教室の中はざわめきを保っていたけれど、私はそれと切り離されたように一人ぼうっと窓の外に視線を向けていた。
「……何?」
「委員会何処にするか決めた?」
 意を決したように話を切り出した善法寺の反対隣に居た食満留三郎が、微妙な表情でこちらを見ていた。
 三人で一つの机を使ってはいるけど、私と二人は別に仲良くもない。
「別に」
「そっか。僕は保健委員にしようかなって思ってるんだ」
「そう」
「保健委員が二人なら片桐くんを誘うんだけど……あ、用具委員とかどう!?留三郎は用具委員会にするつもりなんだって」
 きらきらとした眼差しで見られても対応に困る。
 食満は食満で私を睨んでいるし……。別に委員会は真面目にするつもりがないからどこでも良いんだけど。
「お前たちそろそろ決まったかー?」
 は組の教科担任である大木雅之助先生の声に異口同音の返事が上がるけど、大半が既にどの委員会にするか決めているようだったので、大木先生は話を進めることにした。
「まずは学級委員長。立候補はいるか?」
 どうやら最初から人気のない委員会に大木先生は眉間に皺を寄せた。
「いないなら里見、お前がやれ」
「ええ!?なんで俺なんですか!」
「お前結構世話焼きだから大丈夫だろ。よし、学級委員長は里見で決定と」
「ちょっ、大木先生!?」
 本人の意見を無視して、大木先生は里見喜郎と黒板にその名前を書いた。
 この調子だと面倒が待っている気がしてならない。
「じゃあ次は会計委員は……」
「はーい」
 私の後ろに座る瑞木寺迩蔵が気だるげに手を上げる。
「お、どうした瑞木寺」
「計算なら慣れてるし、変な委員会入れられるよりはましかなーと」
「なんだその気のない声は。声出せ声。ど根性ー!」
「……意味わかんねーし」
 ぼそっと呟く瑞木寺は欠伸を一つ浮かべて大木先生にチョークを投げられていた。
「よし次は体育……」
「はいはい!」
「はーい!」
「うおお!?」
 勢いよく手を上げる二人に大木先生は思わずたじろいだ。
 手を上げたのは、は組の体力馬鹿なツートップの川田宗次郎と箕輪風早の二人で、昨日のマラソンで二人が先頭を疾走していたけど、道を間違えて結局二人仲良くビリになっていた。
 元気のいい二人を大木先生は感心気に見ていたけど、結局箕輪が体育委員を勝ち取った。
 その後も順調に委員会が決まっていく中、最後の火薬委員が埋まらないまま残った。
「消去法で火薬委員は片桐だが……お前ちゃんと活動できるのか?」
「さあ」
「さあってなんじゃ。お前は本当……まあいい。これで委員会は決まりだ。まだ時間もあるし、授業の続きをするぞー」
 これには私以外の全員が不満の声を上げる。
 いっそ早めに授業を切り上げてしまえばいいのだろうけど、は組は入学一週間目ですでにい組との授業差が出始めている。主に大木先生が担当する教科の授業が。
 実技に関しては補習のお陰でい組より先に進んでいる部分もあるけど、所詮補習だ。やっぱり全体的に遅れてる。
「ほら全員忍たまの友を開かんかー」
 大木先生の声に皆が渋々と言った様子で忍たまの友を取り出す。
 そんな中、隣に座る善法寺と食満の二人が忍たまの友を忘れているのが分かった。
 気付いた瞬間大木先生の視線がこちらに向かい、私は溜息を吐いて善法寺の前に忍たまの友を置いた。
「見れば」
「え、でも三人だと見にくいよ」
「覚えてる」
「ええ!?覚えてるって忍たまの友全部!?」
「……予習しないの?」
「しない」
「したことないな」
 驚いた表情のまま善法寺に同意を示す食満。それに他の皆も頷く。
 頷かなかったのは里見と瑞木寺くらいのものと言うなんとも情けない話。やっぱりは組ってアホのは組なのね。
「お前ら予習ぐらいど根性でせんかー!!」
 大木先生が怒鳴るのも無理はない話だわ。


  *    *    *


 伊作も分からないけど、留三郎もよくわからない。
 最初私を嫌っていたのにすぐに伊作と同じように私を構うようになったし……うーん。
「そう言えば三喜之助、午後からの実技どうするの?」
「迩蔵と組む」
「三喜之助、今日はくのたまと合同だぜ」
「……今日だっけ」
 呆れたように後ろに座る迩蔵に言われ、私は思わず迩蔵に問うた。
 合同授業があるのは聞いていたけれど、日付までは聞いていなかったのでわずかに驚いた。
「今日だよ。同じ二年のくのたまらしいぜ。一年生への洗礼の前に俺たちに洗礼をしてくれるそうだ」
「今朝方力の入ったくのいち集団が用具倉庫に色々借りに来たぜ」
「貸したの!?」
「俺は拒否したんだが、同じ当番だった楠木先輩がなあ……」
「……楠木先輩いじめっ子だからね」
 がくりと伊作が肩を落とした。
 は組だとよく伊作が被害に遭っているらしい。流石不運委員会。
「同じ学年のくのたまって接点委員会位じゃない?」
「用具はくのたま来ないぜ」
「そりゃ用具委員会はね……あ、でも保健委員も来ないよ。医務室が別だもの」
「会計委員は一緒だな。同じ学年のくのたまっていうと……イロか」
 迩蔵が言った名前に私は思わず迩蔵を見た。
「な、なんだよ」
「三喜之助が反応した!?」
「そりゃ知った名前かなんかだからだろ?……で、実際どうなんだ」
「……知った名前」
「「「おお!」」」
 迩蔵まで伊作と留三郎のノリに乗った。性質が悪い。
「でも違う」
 “イロ”は死んだ。死んで、三喜之助が生まれたのだから。



⇒あとがき
 伊作が贔屓出来ないっ。これじゃただのは組遊びだ。←
 大木先生を主人公たちの教科担任にしたのも趣味だ!実技にするか教科にするかは悩んだけどね!
 とりあえず次で一話は終わり……になるはず。
20100419 初稿
20220922 修正
    
res

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