05.部活動

「あ、池上」
 HRが終わって荷物を片手に席を立つと、鉢屋くんが慌てて寄ってきた。
「何?」
「あ、いや……今日一緒に帰れるかなと思って」
 鉢屋くんの言葉に私は思わず目を見張った。
「え?でも今日部活の日でしょ?」
「や、まあそうなんだけど……」
 集合時間が厳しいらしい野球部の生徒はHRが終わるや否や我先にと教室を早足で出ていく。
 それは一年以上見ていればもう見慣れた光景ではあるけど、毎度の事ながら感心してしまう。
 野球部だけじゃなくて運動部の人たちは着替えが必要だからとすぐに教室を出て行ってしまうのを横目に鉢屋くんの視線が泳ぐ。
 鉢屋くんが所属する弓道部の部長は三年い組の潮江文次郎先輩で、生徒会長でもある潮江先輩を前にして部活をサボれるのは鉢屋くんだけだと聞いたことがある。
 彼女がいる間は彼女を大事にするとは聞いていたけど、ちょっとこれは酷い。
「部活はちゃんと出たほうが良いよ」
「なんかそう言うと思った」
 苦笑を浮かべる鉢屋くんに私は首を傾げた。
「池上はもう帰るのか?」
「うん。買い物して帰らないと行けないし……あ、そうか」
「何?」
「あ、付き合ってるから一緒に帰ろうって言ってくれたのかって思って」
 誰かと付き合うって言う感覚が今一掴めなくてなんでそんな事言ってくれたんだろうって少し遅れて気付いた。
 恋人同士なら一緒に帰るべき、なんだろう。うん。
「えっと、明日なら一緒に帰れるよね。朝は休錬で大変だと思うけど、楽しみにしておくね」
「へ?あ、ああ」
 意表を疲れた様子の鉢屋くんに首を傾げると、鉢屋くんは「頑張る」と小さく返してくれた。
「部活頑張ってね」
 そこまで急ぐ必要はないけど、明日一緒に帰るんなら今日は大目に買い物をして帰ろう。
 引っ越してから二月ほどになるけどまだ新しい近所のスーパーに慣れない私は、鉢屋くんにひらひらと手を振りながら教室を後にした。


  *    *    *


「あ、美沙ちゃん!」
 下駄箱で靴を履いていると、大川高校のロゴの入ったバレー部の揃いのTシャツにハーフパンツ姿の尾浜くんが駆けてきた。
 幼稚園の頃からの付き合いではあるけど、それほど仲が良いってほど仲が良いわけでもなく、だからと言って仲が悪いわけでもない。
 昔は勘ちゃんって私も気安く呼んでいたけど、中学に上がってすぐに尾浜くんって呼ぶようになった。
 お互い友達の輪が違うと段々喋らなくなって疎遠になっていたし、気が付けば高校まで一緒だったけど、幼稚園の頃から今まで一緒のクラスになった回数は意外と少ない。
「ねね、三郎に告白したって本当?」
 辺りを見回して、内緒話をするように聞いてきた。
「告白と言うか……立候補してみた、かな」
「立候補?あはは。相変わらず斜め上だね、美沙ちゃんは」
 けらけらと笑う尾浜くんは靴を適当に脱いで簀子の上に上がる。
「忘れ物?」
「そー。滝夜叉丸って知ってる?一個下の」
「一年い組の平くんでしょ?結構有名だから知ってるよ」
「そう、その滝夜叉丸に貸すって言ってた本教室に忘れちゃってさー。外周行く前に取りに言って置こうと思ってさ」
「部活終わる頃には教室閉まってるもんね」
「そうなんだよねー。バレー部は七松先輩の所為で特に練習が終わるの遅いから」
 平くんと言えば一つ下のナルシストな男の子だ。
 尾浜くんと同じバレー部で、部長の七松先輩の前ではそのナルシストが形無しなのが可愛いのだと表立って応援しない影のファンクラブがあると言う噂がある。……本当なのかは知らないけど。
 確かに綺麗な子ではあるなあと思ったけど、それ以上特に思わなかった。
 何しろ一つ下の学年は中性的と言うか、女の子みたいに可愛い子が多すぎるのだから仕方がない。
 綾部くん然り、田村くん然り。
 ああ、そう言えば同じ社会貢献部の斉藤さんは唯一格好良いかな。
 学年は一つ下とは言え、年齢だけ言えば年上なんだからそれなりに見えないと格好悪いんだろうけどね。
「あ、そだ。おばちゃん元気?」
「元気だよ。前みたいに我武者羅に働かなくて良くなった分、ゆとりが出てきたって言ってる」
「そっか……えっと、お幸せに?」
「ふふ。伝えとくよ」
「急がないと部活に遅刻するから行くね!」
「気を付けてね」
 なんだか走って転げそうなくらいの勢いの尾浜くんの背に手を振り、私は靴をしっかりと履き、散らかっている尾浜くんの靴をそっと簀子の端に寄せる様に並べた。
 尾浜くんは相変わらず子どもっぽい。
 変わらない彼に思わず私はくすりと笑いながら学校を後にした。


⇒あとがき
 体育のドラマCDをまだ聞いてませんが、勘ちゃんと滝夜叉丸が親友になる話があると言う事でちらっと滝夜叉丸出してみました。
 何故か設定メモがサッカー部になってて、一度書き終わった時点で小平太がサッカー部って変だ!と慌ててバレー部に書き直しました。危ない危ない。
20110228 初稿
20220721 修正
res

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