番外編/鉢屋くんのファーストキス

 それはある日の休み時間の出来事。
 私と三郎と尾浜くんたちで一緒に屋上で昼食をしていた時の事だった。


「なあ勘右衛門」
「ん?なにー?」
「美沙に止められたが、俺としてはやっぱり気になるんだ」
「何が?」
「勘右衛門、お前、ファーストキスの相手が美沙って言うの止めないか?」
 真面目な顔でそんな事を言う三郎に、竹谷くんが飲んでいたジュースを吹きそうになって堪え、器官に入ったのか激しく咽ている。
 不破くんはぽかんと口を開き、唯一動じなかった久々知くんも数秒遅れて豆腐に夢中になっていた箸を止めた。
「でも事実だし。ねー」
「ねー」
「そこの幼馴染、話合わせない!」
 こてんと首を傾げた尾浜くんに私もこてんと首を傾げれば、三郎が軽く涙を浮かべていた。
 ちょっとしたお茶目なのになあ。
「事実、なの?」
「って言っても幼稚園の時の話なんだけどね」
「俺が王子様で、美沙ちゃんが白雪姫だったからね。あ、俺写真まだ持ってるよ」
「私の家、ビデオ残ってるよ」
「え!?何それ超見たい!!」
「でも大事なシーンに限ってお父さんの大声が入ってるんだよね」
「あー……そう言えば叫んでたねー。俺本当にちゅーしちゃったし」
「勘右衛門の破廉恥っ」
「えー?三郎にだけは言われたくないんだけどー」
 そう言って口を尖らせる尾浜くんに私はくすくすと笑った。
「そうそう。そんなのカウントしてたら三郎のファーストキスは0歳の時だろ」
「え?何それ!俺知らないぞ!?」
「不破くんその話詳しく教えて!」
「あ、こら美沙、お前は聞くなっ」
「いいじゃない。ね、不破くん、是非」
「まあ証拠写真のネガは山田さんが握ってるし、美沙ちゃんが頼んだらきっと見せてくれるよ」
「何ぃ!?」
「まあ同時に僕が何かを失う気がするんだけどね」
「おいまさか……」
「って事は?」
「おー」
「何それ面白い!」
 遠い目をした不破くんに三郎が顔を青くし、竹谷くんが「おほー!」と何か興奮し、久々知くんがのんびりとした声を上げ、尾浜くんはどこか楽しそうに目を輝かせる。
 つまり、三郎の本当のファーストキスの相手は幼い不破くんだったんだろう。
「なんでそうなった!?」
「犯人お前だよ!」
「覚えてないっ」
「0歳児の記憶があったら怖いよ!」
 顔を青ざめさせた三郎の頭を不破くんが遠慮なく殴った。
 確かに赤ちゃんの時の記憶があったら怖い。
 って言うか犯人は三郎の方だったんだ……ふーん。
「三郎って、そんなころからキス魔だったんだね」
「おほー。三郎ってキス魔なのか?」
「初耳だな」
「やっぱり三郎の方が破廉恥じゃん!」
「従兄弟の縁切りたくなるね」
「……お前らうるさーい!!」
 顔を真っ赤にした三郎の叫び声が晴れ渡った青空に響き渡った。
 


⇒あとがき
 不意に三郎を赤面させたくなったのでやりました。
 実は三郎のファーストキスは雷蔵様だったんだぜ!って言う冗談……に見せかけた本気。←
 まあ正確には面白がった周りがそうなるように仕向けつつカメラ構えてたんでしょうが(笑)
20110429 初稿
20220813 修正
res

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